「思考の骨格」を作る本〜高校生のための批評入門

以前「高校生のための文章読本」という本を読みました。「高校生のための批評入門」は、文章読本と同じ「高校生のための三部作」の一冊です。文章読本を読んだあとに残りも読んでみようと思って手に取りました。
※高校生のための三部作:「高校生のための文章読本」「高校生のための批評入門」「高校生のための小説案内

タイトルにも入っている「批評」という言葉。ちょっと怖い言葉だと個人的に思います。あくまで自分勝手な印象ですが、「上から目線」いうか「手ぐすね引いてお手並み拝見」と言外におわされているような、というか。
でも、この本を読むと批評のイメージが変わります。

「この本を使うみなさんへ」には

批評とは何でしょうか。評論を読んだり、論説文を書いたりすることではありません。もちろん他人の欠点をあげつらうことでもありません。みなさんは、世界にひとりしかいない「私」という人間として、考えています。「私」を、世界の中に考える主体として置くこと—–これが批評のはじまりです。
(中略)
<批評が生まれる現場>に即して、みなさん自身のものの見方や考え方を訓練する、いわば<生き方のワークブック>なのです。

とあります。
自分対世界の中で、自分はどう見てどう考えるか。それが出発になるわけです。

この本には51の文例が収められています。いわゆる評論文だけでなく、小説、エッセイ、対談、風刺画など盛りだくさん。その一つ一つが興味深い作品で読んで楽しいし、こういうものの見方もあるのか、と気づかされる。
自分が読んで気になった文章は

特に印象的だったのが「手が考えて作る」。右利きの筆者が、ものを作るときに右手と左手がどういう働きをしているかを細かく観察しているのですが、右利きだからなんでも右手が主役になって物事をこなしているかというとそうではない。左手が主役になっていたり、左手の働きがあって初めてうまくいく作業もあることを考察しています。
筆者の観察眼・分析の細かさに、ものを観察するとはどういうことかという新たな気づきを得ました。
文例だけでなく、各章の最後にある編者による「手帖」という解説が非常にいい。身近な例や文例を出発点に、批評を身につけるにはどうしたらいいか、を解説しています。

批評力を身につけるために自分ができることはなんだろう。
まずは物事をよく観察すること。表面的なものに惑わされないこと。「なぜ」と思ったことをそのままにしないこと。「自分はどう思うのか」をとことん考えること。
どれも簡単にできることではないけど、ちゃんと意識して物事に向かい合うことで、しっかり考え、それを表現することにつなげていけたらと思います。

最近、思考力を鍛えるための本、思考法についての本がたくさん出ています。
そういう本をを全部読んだわけでないのですが、それらが「思考の筋肉を鍛える」本だとすると、この「高校生のための批評入門」は「思考の骨格を作る」本だと思います。すべての思考の基礎になる部分を作るために、この本を読んで考えたことが役に立つと思います。
タイトルにあるとおり本来高校生向けに作られた本で、体裁も教科書チックですが、大人が読んでも十分役に立ちます。

この本にたどり着いたのは、高校生の時に読んだ「高校生のための文章読本」に、約20年後に書店で偶然再会したことがきっかけです。今こうしてこれらの本に出会えた (再会できた) のは本当によかったと思う。自分なりの「感じる力」「考える力」を付けていくために、繰り返し時間をかけて読んで考えていきたい本です。

 

高校生のための批評入門
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