驚きと楽しみは細部に宿る〜中二階
物語はどんな場所にでも宿る。日常の中に転がっている、本当にに些細な取るに足りない細かい物のなかにも。
この本は泡で満たされた炭酸水ように、日常のささいなことから世界が広がっていきます。人間の力を超えたものを描く壮大な物語の対極にある、ごく細かい、くだらないと言ってしまえばそれまでの瑣末なことの集積です。でもその瑣末さが、壮大な物語に負けず劣らずとても楽しい。にこにこしながら読んでました。
個人的には「ミシン目」 に対する非常な讃辞が気に入りました。確かにこれを考え出した人はすごい。ミシン目がなかったら、人はどれだけストレスを抱えてしまうか。ミシン目の偉大さなんてふだん考えもしなかったけれど、確かに大きく注を取って讃辞を送る価値があるものかもしれない。
このミシン目に関する賛辞は注にあったのですが、全体を通して本編より注を読む方が楽しいのです。注が非常に細かくて、ひとつひとつが独立したストーリーのようなもの。本編から注に脱線し、どこまで読んだかな、と確認して本編に戻り、程なくしてまた脱線。
まず本編を読んで、あとでまとめて注を読む読み方もあると思いますが、それだと読む楽しみはかなりなくなってしまう。
この本を読む主目的は脱線の楽しみを味わうことにあるのかも。
ただ、最初にあとがきを読んだのは失敗でした。ネタバレとまでは行かなくとも、物語の構造が最初にわかってしまったので。構造を知った上で読んでも十分楽しめたけど、本編を読み終わってからあとがきを読むことをお勧めします。
本のオビに「前代未聞の『極小文学』!」とありますが、確かにこんな小説は読んだことがない。読んだことがないしすごく面白い。とても楽しい時間を過ごせました。
白水社
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余談
ミシン目について書きましたが、紙にミシン目を入れたいなら実際にミシンにかけるのが手っ取り早く確実です。本来の使い方ではないし針がダメになってしまいますが。
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