月: 2013年12月
2013年に印象に残った言葉
今年であった言葉で、特に印象的だったものをご紹介します。
「大事なものはぜんぶ目に見えないと思ってるの。目に見えないことが一番大事なことだと思ってる」
「目に見えるものは全くわたしにとって大事じゃないんだよね」
「ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ」
ドキュメンタリー映画「100万回生きたねこ」での、佐野洋子さんの言葉です。
これらの言葉の直後に
鮭を焼いて食べても「おいしい」ってのは目に見えないじゃない
という趣旨の発言があって、これがものすごく印象に残りました。
確かに食べもの自体は目に見えるもので、見た目も非常に大切なのだけど、一番重要な「おいしさ」は目に見えないんですよね。
見えているのは、あくまで「おいしそうな外見」でしかないのです。
講談社
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どちらが良いということではない。ただ違うということだけだ。
小山田浩子「いこぼれのむし」
今年よかった本で取り上げた、「工場」収録の短編小説「いこぼれのむし」の一節です。
体調不良で会社を辞めた主人公が、それまで行くことのなかった時間帯にスーパーマーケットに行くようになり、時間帯によって客層や売られているものの違いを実感する場面の言葉です。
自分の考えの及ばないものに出会った時、つい良し悪しとか「理解できる / できない」などを判断してしまいます。
こんな風に「ただ違う」と考えるのは結構難しいと思うけれど、でもまずはそのままを受け止めることが一番大事なのかもしれません。
(前略)
…あらためて生きて、生きつづけることというのはべらぼうにハードなことだと思い知るのだった。
(略)
…そう、人生の半分以上をとにかく生きてきた我々は、ゆうても日常を送るプロ、あるいはセミプロなんだという自信を持ち、何も起きていない日常はプロとしてのベストを尽くしきっている状態であるのだと、そんな風に思えばいいのかも。無事は偶然ではなく、プロとしての技術を駆使して有事を回避できているのだと、そしてこの状態を明日もつづけてゆけばいいのだと、そんなふうに励ます方向でどうだろう。でもこれで有事になったらプロ失格、ほんとの意味での人間失格、立ち直れそうにないよねえ。川上未映子「オモロマンティック・ボム! 連載172 日常を送るプロとして」週刊新潮2013年2月21日号
「日常を送るプロ」という言葉がガツンときました。確かに何かのプロである以前に、みんなまず日常を送るプロなんですね。
最後の一文はともかくとして、「日常を送るプロ」であり続けること、プロであることを自覚するのが大切かもしれません。人生のあらゆる出来事は日常の上に起こるのだから。
新潮社 (2012-06-27)
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2013年「読んでよかった」と思った本 #10book2013
のんびり本を読んだ1年が終わります。今年読んで「よかったな」と思った本をご紹介します。
小山田浩子「工場」
仕事と会社とそこにいる人々の不条理をうまく描いていて面白い。奇妙なリアリティがあって、読んでいて感じる落ち着きのなさがいい感じでした。
この本は小山田さんの初めての単行本ですが、次の本も読んでみたい。
ラジスラフ=フクス「火葬人」
チェコスロヴァキアの作家による、グロテスクで怖い小説。一見穏やかなようで、知らないうちに恐怖がひたひたと迫ってくる。
平穏な生活を送る穏健な主人公が、いつの間にか恐ろしいことをしでかしてしまう。
「人間って、簡単に変わってしまうんだ」「人間って怖い」と思い知らされる小説です。
ちなみにこの小説は、チェコスロヴァキアで映画化されています。表紙写真はその一場面です。
映画化されたものの、直後に「プラハの春」等が起きてお蔵入りされてしまい、89年にやっと公開された、という曰く付きです。
ハウス加賀谷・松本キック「統合失調症がやってきた」
統合失調症の苦しみを書いて、重いながらも「読んでよかった」と思えた本。
統合失調症に限らず、しんどい思いをしている人に、読んでもらいたい本です。
読書記録はこちら
イースト・プレス
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津村記久子・深澤真紀「ダメをみがく: “女子”の呪いを解く方法」
ある程度の年齢になった自分がこの先どう生きていけばよいか、のヒントになった本。
自分をできるだけすり減らさないようにするためにも、「ありもので生きる」姿勢は忘れないように、そして「呪い」から少しでも解放されるようにしたい。
タイトルに「女子」とありますが、男女そして年齢問わずに読んでもらいたい本。「生き方」に悩む人に勧めたいです。
紀伊國屋書店
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高野秀行「謎の独立国家ソマリランド」
ソマリアという、縁遠い国の中にある「独立国家」ソマリランド。
「ソマリア=海賊」という考えがいかに単純かわかりました。もちろん海賊の話も出てきますが、自分の想像を超えていました。
文字通り未知の世界が目の前に展開し、その驚きに読むのがやめられません。
「国ってなんだ」と考えさられました。
パコ=ロカ「皺」
昨年末テレビでアニメを見、今年に入ってから原作漫画を読んで、アニメは映画館にも見に行きました。
これはぜひ両方を見てほしい。ラストが違うから、というのもありますが、漫画ならではの表現、アニメならではの表現を楽しめるからです。どちらもとてもいい。
本には「皺」と「灯台」の2編が収録されています。かなり雰囲気が違いますが、どちらもいい作品です。
小学館集英社プロダクション
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来年も、楽しい本に出会えるといいな。
《気になる》本脈—発見!本と本とのつながり
ある本を読みたいと思うきっかけはいろいろあります。以前読んだ本と似たようなものを手に取るとき、両者になんらかの「つながり」を感じているかもしれません。
「つながり」の意識は、本より音楽の方が持ちやすいかもしれませんね。あるアルバムに参加している人に興味を持って、そこから新しい音楽にたどり着く経験をした人は多いでしょう。
本だと注目点によって、つながりが変わってきそうです。内容か、同じテーマを書いている著者か、あるいは出版社か。
わたしは「つながり」を意識した読書、系統立った読書をしていないので、読み方を変え視野を広げるのに役立つかも、と思います。
《気になる》電信柱の陰から見てるタイプの企画術
「電信柱の陰から見てるタイプ」って、なんじゃそりゃ、と思ってしまいました。この言葉と「企画術」が、うまく結びつきませんでした。著者の経歴を見ると、話題になったCMを多数手がけています。ますます「電信柱の陰から見てる」とは、かけ離れている感じがします。
「○○をやっている人はこんな人」というステレオタイプは、様々な職業にあります。
例えば営業職の人は弁が立つ、押しが強いタイプと思われがちですが、実際には口べたで木訥だけど、お客さんに気に入られて成績を伸ばす人もいます。
クリエイターも例外ではないはずです。確かにタイトルはクリエイターのイメージと正反対ですが、だからこそどうやってこれらのヒット作を生み出したのか、興味がそそられます。
宣伝会議
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《気になる》残るは食欲
表紙のケーキを見て、「あーおいしそうだな」と思ってしまいました。最初みかんがのっているかと思いましたが、大きさから考えると黄桃でしょうか。
色々な欲がありますが、一番わかりやすく、消えることがないのが食欲なのは確かです。食欲がなくなるのは一大事。なくなるのは問題だけど、ありすぎても困る。なかなか厄介です。
しっかり食べている人は強いですよね。「食べたものがその人を作る」のは真実でしょうし。
著者が食欲とどうつきあい、どんなおいしいものを食べてきたのか、気になります。
新潮社 (2013-03-28)
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《気になる》REAL BONES 骨格と機能美
現実に目の前で蛇が鎌首をもたげてきたら、一目散に逃げます。でもこの表紙の写真には、しばし見とれてしまいます。
形だけが残って、蛇の持つ恐ろしさが落ちているからかもしれません。
蛇の骨格全体を見たのは、初めての気がします。蛇に限らず現実にいる動物の骨格を見ることは、そうありません。一番よく目にするのは、人間の骨格ですね。
どの動物にとっても、骨は身体を支えるものです。その形を見れば、その動物にとって何が重要かが分かるのかもしれません。
存在の芯になる物だからこそ、美しいのかもしれません。
早川書房
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《気になる》水の生きもの
インドの手作り絵本です。1つ1つシルクスクリーンで刷られた絵を手で製本しています。さらに1冊ごとにシリアルナンバーも入っています。
絵本そのもののよさに惹かれたのが一番ですが、手製本・シリアルナンバー入りの絵本がAmazonや通常の書店で流通している、というのもかなり驚きでした。
絵は素朴ですが、見ているだけで笑顔が浮かんできます。休日の昼下がりに、お茶を飲みながらゆっくり眺めたい本です。
《気になる》増補版 誤植読本
ある本を読んでいて、「未完」が「末完」になっているのを発見しました。
「誤植箇所を指摘した本を発行元に送ると、増刷時に修正した本を送ってもらえる」と聞いたことがあります。実際にやったことはありません。この本は絶版になっているので、試してみることもできません。
本来誤植はあってはならないことです。1文字の誤植で、文の意味がまるで変わってしまう可能性もあるから。でも完全になくすことは難しいのかもしれません。
大きな辞典になると、2版を印刷するときに数百カ所の誤植が発見されることがあるそうです。初版発行時にきっちり校正しても、それだけ取りこぼしが出てしまうんですね。
あってはならないものだけど、読む側にとっては、誤植の発見は一種の楽しみかもしれません。「あー、こんな間違いしてるよ」なんて思ったりして。発行側には申し訳ないと思いますが。
確かに本と誤植は切っても切れない関係です。本の作り手は、困った存在である誤植をどう考えているのか。とても気になります。
メディアマーカーの登録件数が5,000件を超えました
12月17日に、メディアマーカーの登録件数が5,000件になりました。5,000件目は、永野裕之「根っからの文系のためのシンプル数学発想術」でした。
4,000件目を登録したのは2013年1月31日、いとうせいこう「想像ラジオ」でした。
3,000件目を登録したのは2012年3月30日、枡野浩一「歌—ロングロングショートソングロング」でした。
2,000件目に登録したのは2011年4月30日、「フランス名詩選」でした。
1,000件目を登録したのは2009年11月4日、夏目漱石「私の個人主義」でした。
登録のペースは相変わらずですが、読むペースがちょっと落ちています。
数年に1回のペースで「本が読めなくなる時期」がやってきます。今そこにかかりつつあるかもしれません。
そんなときでも本への興味がなくなるわけではありません。
これからもどんどん登録して、そのときそのときのちょうどいいペースで読んでいきたいと思います。
技術評論社
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《気になる》私の暮らしかた
大貫妙子がシュガーベイブのメンバーとしてデビューして40年です。もうそんなに経ってるのかぁ、と思いました。
日本のポップスやロックを切り開いてきた人たちは、もうみんな60代前後なんですね。
彼女の心構えは
足りないものがあっても、今の暮らしは自分で選んできたものであると納得して生きる
だそうです。
今ある自分に対して「自分で選んできたものであると納得」するのは、わたしにとっては簡単にできることではありません。いい年して何やってんだ、とは思いますが、納得しなければならないことに対して、惑ったりぐじぐじ悩んだりしてしまいます。
そういうところを直していかないと、いつでも背筋が伸びている生き方は難しそうです。
もうちょっとシャキッとした生き方をするために、彼女の考え方に触れてみたいです。