月: 2010年2月

雑誌の読書特集

時々雑誌で読書特集が組まれます。現在だとananがそうだし、少し前のBRUTUSや、去年になってしまいますが日経 WOMANの2009年8月号など。自分が気がついたのはこれくらいですが、他にもあるかもしれません。
こういう特集を見ると、とりあえず雑誌を手に取ってみるのですが、これまで買うに至ったことがありません。掲載されている本に興味がないわけではない、しかしなんか触手が動かない (まあ、ananに関しては元々自分とはかなり縁遠い雑誌だから、というのが一番の理由ですが。ぱらぱら見たところ面白そうな本は載っていたけど、やはり買う気にはならなかった)。
元々雑誌はあまり買わないのですが、それでも手に取った雑誌の書評は必ず見るし、そこから興味を持って読んだ本もある。「シュレディンガーの哲学する猫」なんか、スポーツジムにおいてあったオレンジページに掲載されていたのを見て、それで図書館で借りて読んでるし、「公僕—The Japanese civil servant」は立ち読みした週刊文春で特集されていたのを見て買ったし (しかし、その後マンションの水漏れの被害にあって開かなくなりました…)。

雑誌の書評自体は気にしてみるのに、読書特集を組んだ雑誌には食指が動かない。なぜなのか自分にも分かりません。
ちなみに書評雑誌に関しては、本の雑誌はかなり昔に読んでいたことがあるけど、ダ・ヴィンチは読んだことがありません。

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《書評》「普通」というのは難しい、いろんな意味で〜「普通がいい」という病

この本は、精神科医である著者がカウンセラー志望者などに向けた講座内容を一般向けに構成したものです。
「普通」という言葉はあたりまえのように使われますが、実は結構曖昧な言葉なのかもしれません。そして曖昧ながら、人を縛る力が強い言葉でもあるわけです。この本には「自分で感じ、自分で考える」という基本に支えられた生き方を回復するためにはどうしたらいいか、そのためのキーワードやイメージがが数多く登場します。

自分にとって特に印象的だった点を書きます。

第2講に「言葉の手垢を落とす」というのがあります。「言葉の手垢」とは、言葉にくっついている「ある世俗的な価値観」のことです。一度ある言葉を獲得してしまうと、その言葉についてじっくり考えたりそこにどんな手垢がついているのか吟味せずに、ただただ使っていってしまう。しかしそれが後々、物事を見たり考えたり判断する上で大きな影響を及ぼすようになる。それを思うと、言葉を不用意に扱うのは、実はとても恐ろしいことであると言えるのではないか。
この章をを読んで、はっとしました。確かに普段言葉を使うとき、特に考えることなく、何気なく使ってしまうことが多い。でもその言葉によって、
言葉を受けた相手を縛ったり、あるいは自分自身を縛ってしまう可能性がある。
自分が使う言葉すべてを吟味するのは現実には無理だろうけど、自分が発した言葉についた手垢がどういうものか、どういう意図で自分がその言葉を使ったのか、折を見て振り返るようにしたいと思います。

あと第8講「生きているもの・死んでいるもの」では、美術家の横尾忠則氏と医師の木村裕昭氏の対談が引用されているのですが、この中に木村氏の発言で

「…敏感な人は、同時に神経が細いというやっかいなことがある。だから、敏感になって太ければいいわけです。…」

とあります。わたしはこれを読んでびっくりしました。よく「敏感で細い」「鈍感で太い」という言い方はしますが、「敏感で太い」というのは考えたこともなかったからです。
この引用の直前で、人が成長し社会化されていく上で、どんな人も必ず通る「適応」のプロセスについて、その中で「本当の自分」を発見し、それを活かす方向に進めた場合と、うまくいかなかった場合について論じられています。
著者は「本当の自分」をしっかり持ち、さらに処世術的なテクニックを身にまとう事で自分自身を守ることの必要性を説いています。

自分のあり方を考えたり、自分以外の人や世界との関わりを考える上でのよいテキストだと思いました。
気持ちが沈んだり、自分を押さえ込みがちになってしまったときに、再び読んでみたいと思います。

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「こうであるはず」だったのものは実は〜クーリエ・ジャポン2010年3月号を読んで

クーリエ・ジャポンは、世界中のメディアから発信されたニュースを翻訳・編集した雑誌です。
今回レビュープラスさんから献本いただきました。

特集は「貧困大国 (アメリカ) の真実」。堤未果さん責任編集で現在のアメリカが、どれだけ貧困にむしばまれているかが丹念に追われています。
これを読むと、アメリカ国民がいかに借金に苦しめられているか (それこそ死んでも借金から逃れられない状況があるとか)、「普通の人」で生活に行き詰まる人がどれだけ多いかが見えてくる。ここではこれまで自分 (たち) が考えてきた「こうであるはずのアメリカ」は、ほとんど感じられない。

ルポの中に、フードスタンプ (食料配給券) 受給者の話が出てきます。驚くことに、これまでなら考えられなかったような人たちが、失業などをきっかけにフードスタンプ受けるようになってきているそうです。
そんな家族から失われて「安定」の象徴として返ってきた言葉が「ポットロースト (蓋のついた鍋で蒸し焼きにした肉料理)」。彼らは夫婦ともに失業したことから生活に行き詰まり、現在もかなり苦しい生活を送っている。でも、フードスタンプのおかげで、時には日曜日にポットローストが食べられるようになったという。
特集自体が重苦しいものではあるのだけど、このフードスタンプの話に胸が詰まった。

しかしこれは「遠い国」の話なのだろうか。確かにここに示されたアメリカの状況はひどいものだけど、それを何倍かに薄めたような状況は、すでに日本にもあるではないか。健康保険に関しては、日本はアメリカよりずっとマシなのかもしれないけど、それでも保険料が払えず、結果として必要な治療を受けられない人はじわじわ増えてきているといいます。借金にしたって、規模こそ小さいけれど、「必要な」借金が重荷になり、学校をやめたり家を手放す人も増えてきている。こんな中で自分たちができることは、様々な情報に踊らされることなく、何が起きていて、何が必要なのかをきちんと知り、きちんと考えて選択すること、ではないだろうか。これ自体が難しいことではあるかもしれない。でも、難しいからといって諦めてしまうと、より悪い状況に陥るかもしれない。それは心にとめておくべきだろう。

特集以外で興味深かったのが、ニューヨーカーの記事「ミシュラン覆面調査員とランチを食べてみた」。
ミシュラン覆面調査員がどのような人で、どのように料理を食べて評価するか、を追いかけた記事です。
食べ物の味について云々するのは難しい。だいたい自分はごく庶民的な食事で育ち生活しているし、食べ歩きのようなことはほとんどしない。必要に迫られない限りレストランガイドのようなものは見ない。だもんだから、東京版ミシュランガイドが発行されたときの騒ぎが理解できなかった。
その「理解できないもの」の裏側をのぞくという、奇妙な楽しみを味わいました
この特集を読んで思い出した言葉があります。それは嵐山光三郎が「文人暴食」で書いた

「料理は一定のレベルまでは料理人の腕によるが、頂点をきわめたそのさきには、悲しみの味つけが不可欠で、これは食べる側の問題なのである」

というもの。この「悲しみの味つけ」を排して料理を食べ分析するミシュラン覆面調査員は果たして幸福なのかどうか、と余計なことまで考えてしまった。

全体を通して、日本にいるとわからない視点からの記事が多く、暗い話も多いけれど、読んでいて楽しかったです。

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名古屋ライフハック研究会vol.7 参加してきました

名古屋ライフハック研究会に参加してきました

今回はシゴタノ!の大橋さんが講師でいらっしゃるということで、会議室にびっしり人が。今回は「ツール使いこなしガイド」という題で、大橋さんが普段使ってらっしゃるツールについて、細かい使いこなしテクニックを伺いました。

大橋さんの講演およびライトニングトークについてまとめました

このまとめは、あくまでsazanamiがとったノートを基に構成したものであり、実際の講演内容の取りこぼしや聞き間違い等がある可能性があります。まとめの内容はsazanamiの責任によるものです

20100213名古屋ライフハック研究会

今回の収穫は、evernoteの使い方のヒントをいろいろいただけたことです。evernoteは使い始めてまだ日が浅く、いろいろ手探り状態なのですが、ノートの分け方や、特に「取り込んだ情報を振り分ける際に『すぐには必要ない』という情報であっても、削除せずに敗者復活のために保存しておく」との言葉は、なるほどと思いました

今回はライフハック研究会以外でつながりのあった方々に実際にお会いできたこと、「sazanamiさんのブログ読んでます」とおっしゃってくださった方が意外といたこと、そして懇親会で大橋さんに質問ができたことも、自分にとっては収穫でした。
以前ライフハック研究会に大橋さんがいらっしゃったときには、せっかく話をするチャンスがあったのに何も話せなかったのですが、今回は自分から大橋さんの席にお伺いして質問することができました。これだけでも自分にとっては進歩です。
そして大橋さんにお話を伺っている中で、自分にとっての課題も見えてきました。要領が悪かったりして、なかなかうまく物事を進められない面はあるのですが、いろいろ改善しながらがんばっていきたいです。
そして、研究会以外でつながりがあった方々にお会いできた、特に2年ほど前にあった某イベントでご一緒した方に再びお会いできたのは驚きでした。

そして今回も、何冊か本を借りたり古本をいただいたり、返却してもらった本を他の人に貸したりしてきました。
借りたのは「夜と霧 新版」「散文」、いただいたのは「読みもの日本語辞典 (角川文庫—角川文庫ソフィア)」「読書力 (岩波新書)」「死体とご遺体 夫婦湯灌師と4000体の出会い (平凡社新書)」。この本のやりとりこそが、この研究会の大きな楽しみの一つです。

今回は名古屋ライフハック研究会発足1周年、そしてバレンタインデー前日と言うこともあって、いろいろ頂きものをしました。

  • まず1周年記念のチロルチョコ DECOチョコ
  • あめいちゃんからかえるのクッキー (手作り、帰宅するときに少し割れちゃった、ごめんなさい)
  • Sさんからデコレーションしたミニシューとビスケット(これも手作り)
  • yさんからチョコ詰め合わせ

いただきもののお菓子

みなさんありがとうございます。ごちそうさまでした。
わたしからは、あめいちゃんにチョコレートを贈りました。

非常に楽しく有意義な時間を過ごすことができました。
大橋さん、名古屋ライフハック研究会の皆さん、ありがとうございました。

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《書評》「趣味が悪い」と言ってしまえばそれまでだが〜夜露死苦現代詩

「夜露死苦」というのは、言うまでもなくヤンキーがよく使うフレーズです。著者はこのフレーズについて

なんてシャープな四文字言葉なんだろう。過去数十年の日本現代詩の中で、「夜露死苦」を超えるリアルなフレーズを、ひとりでも書けた詩人がいただろうか。

と書いています。

この本は「現代詩」と書かれているけど、いわゆるプロの詩人が書いた現代詩ではなく、街角に埋もれたリアルな言葉から「ほんとうにドキドキさせる言葉」をあぶり出そうとしています。
取り上げられているのは

  • 寝たきり老人がつぶやいた言葉
  • 死刑囚の俳句
  • 玉置宏の話芸
  • 32種類の「夢は夜ひらく」
  • 暴走族の特攻服の刺繍
  • ヒップホップ、ラップミュージック
  • 知的障害者、統合失調症患者の詩
  • エロSPAMの文面
  • 湯飲みの説教
  • 見せ物小屋の口上

など16種類。それに「あとがきにかえて」として、相田みつを美術館訪問記。これらの「詩」から遠く離れていると思われる言葉から「ほんとうにドキドキさせる言葉」を探そうとします。
タイトルにも書きましたが、正直言って「趣味が悪い」言葉も少なくない。でも、趣味は悪いけど、読ませられてしまう言葉が並ぶ。不謹慎ながら、面白いんだ。
そもそも人を引きつけるために発せられる言葉にしても、人にどう思われるかについて全く考えられていない言葉 (表現が適切じゃないかもしれないけど) にしても、すーっと自分のそばに寄ってきて、ぐいっと引っぱられる感じがする。
(エロSPAMといえば、たまに「あんたこんなことしなくても、まっとうなライターとして十分食っていけるよ」って文章がありますね)

面白いだけでなく、この本で初めて知ったことも多い。
例えば

  • 玉置宏のナレーションが台本なしの話芸だったこと
  • 分速360字見当で話すのがもっとも聞きやすい速度であること
  • 喋りの間や、やりとりの基本は古典落語にあること
  • 「夢は夜ひらく」という歌は32種類もあること (この本にはそのうち13種類の「夢は夜ひらく」が収録されています)

あと、ラッパーダースレイダーについて書かれています。
ラップやヒップホップは聞かないのでダースレイダーという人はこの本で知りました。インタビューの中で彼は

ダースレイダーがトレーニングとして自分に課しているのが、「部屋で音楽をかけて、ひとりでもとにかく毎日ラップする」こと。…そうやって「何時間もラップしているうちに、自分でも思っても見なかったラップがリズムに乗って出てくるんです。自分の中にこんな表現が眠ってたのかというようなフレーズが」。
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「ラップは演奏でもあるわけですから、リズムなしだと結局、あとから書き直すことになるし。それに日本語としておかしいとしても、こう言ったほうが口はよく回るし、リズムには乗る、それをどうしていくのかを考えていると、日本語の可能性を追求していくことでもあるんだなと感じてます」

と話しています。これは魂の文章術に出てきたトレーニングに通じるものがあると思いました。ラップか文章かの差はあるけれど、とにかくおかしかろうとなんだろうと言葉を絞り出すことで、自分の中から新しい表現を呼び覚ます。
どんなことにせよ、表現したかったらとにかく表現する、出来を気にする暇があったら量をこなすのが大事なのですね。

ふと思ったよ。「リアルな言葉」と「リアリティのある言葉」って、どう違うのだろう。

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《書評》薄くて鋭利な刃物を連想した〜志賀直哉 [ちくま日本文学021]

志賀直哉は、高校の教科書に出ていた「網走まで」しか読んだことがありませんでした。

ちくま日本文学はアンソロジーなので短編のみの構成です。これらを読んでみて、志賀直哉は怖い人だと思った。特にそれを感じたのが「剃刀」。客を殺してしまった床屋の話なのだけど、冒頭から殺人が起きるまでの主人公の描写も、淡々としているのに心理などが明確にわかり、特に殺人場面はごく短い文2つだけで描写されているのだけど、それを読んで背筋が寒くなった。「城の崎にて」にしても、主人公が投げた石によって起こった出来事が本当に簡潔に書かれていて、わたしはとても怖いと思った。

本の最後に「リズム」という作品がある。一種の芸術論なのだけど、

 芸術上で内容とか形式とかいう事がよく論ぜられるが…自分はリズムだと思う。…
 このリズムが弱いものは幾ら「うまく」出来ていても、幾ら偉そうな内容を持ったものでも、本当のものでないから下らない。小説など読後の感じではっきり分る。作者の仕事をしているときの精神のリズムの強弱—-問題はそれだけだ。

とある。
自分は芸術家でもなんでもないけれど、「精神のリズム」というのはいろいろな場面に応用できそうに思った。生活しながらでも、リズムを意識してみるといいかもしれない。

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