《書評》読書の効用を人に伝えるのは案外難しい〜読書力
齋藤孝氏の本を読んだのは初めてです。齋藤氏は「『○○力』という名前のベストセラーをたくさん出している、テレビにもよ く出ている大学の先生」という認識しかありませんでした。
この本における読書とは 「多少とも精神の緊張を伴う読書」「思考活動における素地を作るための読書」のことです。
読書力があることの目安とし て「文庫100冊・新書50冊」を読んでいることをあげています。「文庫」は「新潮文庫の100冊」にあるようなラインナップ(齋 藤氏の考える読書力は「文学を全く排除したものではあり得ない」)。新書は昔の岩波新書や中公新書のような、ある程度質の高い知識情報がコンパクトにまと まったもの。文庫と新書があるのは、文庫と新書では要求される読書力が違うから、だそうです。
齋藤氏は「本を読むことの意味は何か」という、案外答えにくい問いに対して、「読書によって…の力がつく」という形式で答えて います。
大まかには、各章のタイトルにある「自分をつくる—自己形成としての読書」「自分を鍛える—読書はスポーツだ」「自分を広げる—読書はコミュニケーション力の基礎だ」の3つ。
「自分を広げ る」では、ただ一人で読むだけでなく、読書会などで本を介して人とコミュニケーションをとるやり方にも言及されています。複数の人間で紙にキーワードを書 き込んでいくなど、面白そうな手法も紹介されています。
この本自体、岩波新書とし てはかなり読みやすい本だと思います。それほど時間をかけずに読めます。全体的に読書について熱く語られていて、齋藤氏の思い入れの深さが伝わってきます。彼自身が相当の読書家であり、自 己形成において読書から大きな影響を受けたという自覚、多くの読書に裏打ちされた知識があるからこその熱さだと思います。
そしてわかりやすい。語り口が明瞭で例えがうまく、説得力もある。これを「素晴らしい」と思うか、逆に「うさんくさい」と思うかは人によって分かれるところでしょう。
わたし自身は、読書は農業における「土作り」と同じで はないか、と思っています。そういう点では、読書に対する考えは齋藤氏に近いかもしれません。ただ、自分は古典をあまり読まずにここまで来てしまった、齋藤氏言う読書力の目安に到達してるとはいえないかも、という自覚があるので、偉そうなことは言えませんが。
実は今の職場で、「本を読んだ方がいいですか」という質問を二度受けてい ます。一度は入社2年目の男性社員から、一度は幼稚園児の娘がいるパート女性から(子どもに読ませた方がいいか、という質問)。どちらも「読んだ(読ませた)方がいいです」と答えたのですが、なぜ読んだほうがいいのか、はなかなかうまく伝えられないのです。「本を読んだ方がいいか」という質問の答えとし て、この本を薦めるのはありかもしれない、と思いました。
もちろん、齋藤氏の提唱する読書法が絶対ではないし、本の読み方は人それぞれ。読み方に正解はないと思います。でも、本を読むことの効用は非常に明快に書いてあるので、読んだ方がいい のか、と思っている人にとっては、分かりやすい指針になると思います。
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