「がんばる」と「がんばらない」は同じくらい大事〜働くオンナの処世術
気になる書き手のひとり、深澤真紀さん。これは編集者・会社経営者として20年以上働いてきた深澤さんの処世術をまとめた本です。
「処世術」という言葉にはあまりいい印象がありませんが、生きていく上では必要なことです。自分が頑張ったり誠実に対処しても、うまくいかないことは多くあります。そういう場面でこそ、処世術が必要になるのではないでしょうか。
深澤さんの仕事に対する姿勢は
「いちいちストレスをため込んで、自分を壊してはだめだ」
(p6「まえがき」)
に集約される気がします。どんなに輝いてても仕事で成果をあげても、自分を壊してしまったら元も子もない。自分を大切にしつつ、大事なところではがんばる、そういう姿勢だと思います。
この本のサブタイトルは「輝かない がんばらない 話を聞かない」です。これまでに出版された「『そこそこ ほどほど』の生き方 (単行本でのタイトルは『自分をすり減らさないための人間関係メンテナンス術』)」「考えすぎない生き方」でも提唱されてきた考え方です。
ポジティブ全盛の中にあって、かなり後ろ向きな提案が多く感じられるかもしれません。しかしわたしは「ああ、そうだよね」「こういうことは忘れちゃいけないよね」と、うなずきながら読みました。
その中で特に印象に残ったのは、企画会社を経営している深澤さんが仕事をする上で意識して続けてきたことです。それは「請求書をきちんと発行すること」なのだそうです。
何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、
「請求書を発行する」ということを意識するということは、
①仕事の納期
②仕事の経費や売り上げ
③仕事の内容や質など、「仕事の始まりから終わりまで」を、きちんと考えるということなのです。
会社員の場合なら、「給与明細」が大事です。
「給与明細をちゃんと読めない」という人も少なくないでしょう。
自分がどういう税金を支払っているのか、どういう保険や年金に入っているのか、どんな手当をもらっているのか、それがわからないのに仕事をするのは、商品の値札も見ず、自分の財布の残額も知らないで買い物をするようなものなのです。
(p49「処世術10 大事なことは日常の作業に」)
勤め人のわたしは自分の仕事に対する請求書を書くことはありませんが、税金や年金のことはあまり意識したことないな、給与明細もちゃんと見ていないな、と反省しました。
そして、請求書を書くことはなくても、やるべきこと仕事をきちんとこなし、求められる成果を出すために、深澤さんがあげた3点は常に意識しないといけないな、と思いました。
深澤さんの書くことは「後ろ向き」と言われることが多いようです。この本の「おわりに」でも言及されていました。
しかしわたしは、深澤さんの姿勢は後ろ向きだとは思いません。
よく「前向きに、ポジティブに」と言われます。たしかに前向きであることは大切だと思います。でもなんで「前向き」というと、みんな同じようにポジティブだったりアグレッシブだったりステップアップしようとしたり、になろうとするのでしょう。
「前」って明確に決まった方角じゃないのだから、人によって「前向き」のあり方が違っていてもおかしくないのに。重要なのは「わかりやすいポジティブであること」じゃなくて「その人が前だと思う方向にちゃんと進めるか」ではないでしょうか。
だから他人から見たら「ものすごくネガティブ」に見えたとしても、本人が前に進んでいると実感できれば、自分がやるべきことがきちんとできて、自分をちゃんと守れれば、前向きだろうと後ろ向きだろうと関係ないと思います。
そういう意味で、わたしは深澤さんの処世術はとても前向きだと思うのです。
もちろん、「いつでもポジティブ・アグレッシブ」が性に合っている人はそれでいいと思います。でもそれが合わない人だっているはず。それに物事は自分の思い通りになることは少ないから、これまでポジティブ・アグレッシブにやってきた人でも、それでうまくいかなくなったりつまづく時が出てくるかもしれません。そんなときに深澤さんの処世術は効くかもしれません。
働いている間、ずっと同じ姿勢・やり方を貫かなくてはならない、ということはないはずです。
この本は日経ウーマンオンラインでの連載をまとめたものなのですが、ポジティブ・アグレッシブの代表のような媒体で、正反対とも言える処世術が連載されたのが面白いですね。
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