カテゴリー: ことば

死にたくないから生きている、生きていたいから生きている、それで十分じゃないの

死にたくないから生きている、生きていたいから生きている、それで十分じゃないの

 

数年前に亡くなった伯母の言葉です。
これを聞いたのは大学生の時。当時伯母は50代前半でした。

その頃のわたしは体調は崩すわ勉強に行き詰まるわ人間関係は上手くいかないわで、常にどす黒いオーラを発していたんじゃなかろうか。
そんな時、久しぶりに会った伯母につい色々と愚痴ったのですが、それに対する返答が冒頭の言葉です。
当時のわたしは、この言葉が非常に納得がいかなかった。「ただ生きているだけなんて無意味では」と思ったのは、やはり若かったからでしょう。

 

今年に入って知人の訃報が続けて入ってきたり、体調を崩して長期療養を余儀なくされる同僚が複数出たことが重なり、改めてこの言葉を思い出しました。

大げさだけど、どんなにしんどい時であっても「今日1日をちゃんと生きよう」という気持ちだけは失わないようにしたい。

 

今年出会った「忘れないでおきたい言葉」

今年も本やWebを通して、様々な言葉に出会いました。
「これは忘れないでおきたい」と思ったものをご紹介します。

 

言葉は今現在を躍動させるためにある。

武田砂鉄『紋切型社会——言葉で固まる現代を解きほぐす』p281「誰がハッピーになるのですか?」

今一番気になる書き手、武田砂鉄さん。
「紋切型社会——言葉で固まる現代を解きほぐす」で取り上げられた言葉は、よく聞く言葉ではあるけれど、躍動からはほど遠いものが多い。
自分自身が停滞してしまわないためにも、言葉と向き合う・言葉の背景について考える習慣を身につけられたらと思います。

 

「本の近くにいるといいことがあるんですよね」

帰ってきた炎の営業日誌「11月24日(火)

ミシマ社の営業ワタナベさんの言葉です。
実にシンプルだけど、本に対する愛情がひしひしと伝わってくる。

これを聞いた、本の雑誌社の営業杉江さんの

確かに言われてみれば、本の近くにいるといいことがある。私がここまでどうにかこうにか生きてこられたのも、間違いなく本の近くにいたからだろう。

これも本好きなら、大きくうなずくことでしょう。
確かに、本の近くにいて嫌なことがあったなんて一度もない。
これからも、本から離れずに生きていきたい。

 

「自分の老化」という経験を観察するのはなんだかおもしろいし、老化とつきあうためにあれこれ「工夫」するのも意外と楽しいものである。ともかく自分の体という「ありもの」で生きていくしかないので、だましだまし過ごせばいいと思っているのだ。

小町拝見「経験共有 更年期の友…深澤真紀」

40代も半ばになり、いよいよ老化が身近になってきました。
老化への向き合い方は人それぞれだと思いますが、わたしはこの言葉のように接していきたいな、と思います。
過去に病気で辛い思いをした経験もあるので、今の自分でうまく生きていく方法を考えるのが、心身ともにしんどくならずに済みそうです。

 

「自分と他人を、どう見逃すかが大事だ」ということ。やっぱり人間は一人一変態、一人一派だから、完全な共感とか理解をするのは不可能でしょう。そこで大事になるのは「適度に見逃す」っていうことだよなと。

女オンチな女たち「人類みな『変態』である–vol.6

続けて深澤真紀さんの言葉です。
前出の言葉は「対自分の老化」、こちらは主に「対他人」で自分をすり減らさないためですね。
他人に対していらいらすることは多いけれど、自分の思い通りにすることなど不可能なのだから、できないことで悩むのはやめていかないと。
もちろん自分自身だって思い通りにならない。そこも受け入れていかないとだめですね。

この「女オンチな女たち」という対談、非常によかった。今年目にしたWebコンテンツではダントツだったと思う。
「『女』をめぐる諸問題」がテーマなのですが、年齢性別問わずおすすめします。
男女関係なく「自分自身のありかた」を考える上で、非常に示唆に富む内容です。

 

「自分に自信を持とう」「自分を好きになろう」と、いろいろな自己啓発本に書いてあるが、なかなかすんなりとできるものではない。それならば、自分の強いと思えるところを「美しい」に変えて自分を認めてあげるほうが簡単だ。自分は、もしかしたら自分が思っているよりもずっと「強い」のかもしれない。

サイゾーウーマン「『かわいい』『女子』ブームが本格的に終焉、美容界の向かう『強さと美しさ』の潮流

「あ〜なるほど」と思った言葉。
「自分に自信を持とう」「自分を好きになろう」って確かにその通りなのですが、そう言われてもねぇ、と思ってしまうのも事実。
でもここでちょっと視点や基準を変えれば、自分自身の思わぬ一面に出会いやすくなるかも。
決まり文句にとらわれる必要はありませんものね。

来年も、たくさんの言葉に出会う機会があるといいな。

 

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2013年に印象に残った言葉

今年であった言葉で、特に印象的だったものをご紹介します。

 

「大事なものはぜんぶ目に見えないと思ってるの。目に見えないことが一番大事なことだと思ってる」

「目に見えるものは全くわたしにとって大事じゃないんだよね」

「ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ」

 

ドキュメンタリー映画「100万回生きたねこ」での、佐野洋子さんの言葉です。
これらの言葉の直後に

 

鮭を焼いて食べても「おいしい」ってのは目に見えないじゃない

 

という趣旨の発言があって、これがものすごく印象に残りました。
確かに食べもの自体は目に見えるもので、見た目も非常に大切なのだけど、一番重要な「おいしさ」は目に見えないんですよね。
見えているのは、あくまで「おいしそうな外見」でしかないのです。

『ドキュメンタリー映画 100万回生きたねこ』公式サイト

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どちらが良いということではない。ただ違うということだけだ。

小山田浩子「いこぼれのむし」

 

今年よかった本で取り上げた、「工場」収録の短編小説「いこぼれのむし」の一節です。
体調不良で会社を辞めた主人公が、それまで行くことのなかった時間帯にスーパーマーケットに行くようになり、時間帯によって客層や売られているものの違いを実感する場面の言葉です。

自分の考えの及ばないものに出会った時、つい良し悪しとか「理解できる / できない」などを判断してしまいます。
こんな風に「ただ違う」と考えるのは結構難しいと思うけれど、でもまずはそのままを受け止めることが一番大事なのかもしれません。

 

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(前略)
…あらためて生きて、生きつづけることというのはべらぼうにハードなことだと思い知るのだった。
(略)
…そう、人生の半分以上をとにかく生きてきた我々は、ゆうても日常を送るプロ、あるいはセミプロなんだという自信を持ち、何も起きていない日常はプロとしてのベストを尽くしきっている状態であるのだと、そんな風に思えばいいのかも。無事は偶然ではなく、プロとしての技術を駆使して有事を回避できているのだと、そしてこの状態を明日もつづけてゆけばいいのだと、そんなふうに励ます方向でどうだろう。でもこれで有事になったらプロ失格、ほんとの意味での人間失格、立ち直れそうにないよねえ。

川上未映子「オモロマンティック・ボム! 連載172 日常を送るプロとして」週刊新潮2013年2月21日号

「日常を送るプロ」という言葉がガツンときました。確かに何かのプロである以前に、みんなまず日常を送るプロなんですね。
最後の一文はともかくとして、「日常を送るプロ」であり続けること、プロであることを自覚するのが大切かもしれません。人生のあらゆる出来事は日常の上に起こるのだから。

 

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今年忘れたくない言葉2つ

年が新しくなりました。年末年始に目標を立てる方も多いでしょう。
わたしは今年は目標を立てませんでしたが、2つの言葉を忘れないでおこうと思いました。

ひとつは

人はおおむね自分で思うほどには幸福でも不幸でもない。肝心なのは望んだり生きたりすることに飽きないことだ。

「イノセンス」荒巻大輔のセリフ

この言葉については、以前このブログに書きました

そしてもうひとつは

「昔へ戻れ」だと? 道は一本きりではないか。大切なのは、自分の立場を見つけることだ。そこで何をやるべきか、何をやるべきでないかを考える。本物の目玉は鼻の上に付いている一組分、それだけだろう。そこから見てみろ。なにが見える。

「王立宇宙軍 オネアミスの翼」カイデン将軍のセリフ

この言葉は、長いセリフの最後の部分を切り取ったものです。将軍の独白が続く、映画の中でも好きなシーンのひとつです。

なぜこの2つかというと、今の自分に必要なのは、具体的な行動よりもちゃんと毎日を生きること、自分がどこに立っているかを意識することではないか、と思ったからです。
もちろん行動すること、例えばスキルアップのためにがんばることももちろん必要です。しかし行動に意識が向くあまり、生きることや立っている場所の確認がおろそかになるのはよくないな、自分は特に人の成果を見て自分も何かしなくちゃ、と焦ることが多いので、そういう事態を避けるためにも、この2つの言葉は有効だと感じたのです。

2013年は行動の前に、ちゃんと自分を見つめることを大事にしたいです。

 

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目標はある、道がない。道と名づけられるのは、ためらいだ。

目標はある、道がない。道と名づけられるのは、ためらいだ。

高橋悠治「カフカ / 夜の時間」p21「病気・カフカ・音楽」

 

目標があるのに、そこにいたる道はない。
道を進んでいると思っているが、
実際には尻込みをしているのだ。

頭木弘樹編訳「絶望名人カフカの人生論」p34「6 目標に到達する難しさ」

この2つ、原文は同じと思われます。「絶望名人…」によると、出展はカフカ「罪、苦悩、希望、真実の道についての考察」。
「絶望名人…」はわかりやすくするために、「超訳」的なことが少し行われているようです。
それに対して「カフカ / 夜の時間」の訳 (高橋悠治自身による) は詩に近い。

ここで翻訳についてあれこれ言いたいのではありません。
目標と道についてです。
目標は立ったのにそこにたどり着けない、ということもあるでしょう。
進んでいるつもりなのに全然動いていなかった、ということも。
それでも、動こうとしているのは確か。例えためらいがあったとしても、ためらうのは動こうとしているからこそではないでしょうか。
ためらいが先に立って進めないときでも、「動こうとしているからためらうのだ」と、動こうとしていることを実感できればいいと思います。

 

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疲れるだろ そうゆうのも

疲れるだろ そうゆうのも
どうせ 死ぬまで 生きる
気楽に やれ
気取るな
「コミックキュー VOL.2 1996」収録 松本大洋「ドラえもん」老人のび太の台詞

この言葉は、1996年に発行された雑誌「コミックキュー」に掲載されました。
雑誌のテーマは「カバー・バージョン」。まんが家たちが過去の名作まんがをカバーする、という趣旨のもの。
松本大洋は「ドラえもん」のカバーで巻頭カラーを飾りました。
異色の短編ですが、松本大洋作品ではこれが一番好きです。単行本未収録だと思います。

ストーリーは、冬の公園で青年のび太が少年のび太と老人のび太と出会う、というもの。
青年のび太は苦悩する青年として描かれています。
老人のび太が青年のび太に語ったのが冒頭の言葉です。

「どうせ死ぬまで生きる」

あまりにも当たり前の言葉です。当たり前すぎて、普段全く意識することのない言葉でしょう。
でも、あまりにも当たり前であるがゆえに、とても大事な言葉だと思うのです。
自分がいつ死ぬかなんてわからない。わからないけど、でもそのときまでは自分は生きている。
生きている時間は限られているのだから、無駄なことをしている暇はない。確かにその通り。
しかし時間が限られているからこそ、焦っても仕方ない、というのもまた真理だと思います。
生きている時間は、限られてはいるけど確実に存在する。

「どうせ死ぬまで生きる」んだ、と、一息ついて空を見たり、くだらないことで笑ったりする時間は絶対必要だと思うのです。

 

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人はおおむね自分で思うほどには幸福でも不幸でもない。肝心なのは望んだり生きたりすることに飽きないことだ。

人はおおむね自分で思うほどには幸福でも不幸でもない。肝心なのは望んだり生きたりすることに飽きないことだ。

「イノセンス」荒巻大輔のセリフ

この言葉には、映画「イノセンス」で出会いました。出展はロマン=ロラン「ジャン・クリストフ (未読)」。
特に後半の「肝心なのは望んだり生きたりすることに飽きないことだ。」が引っかかり、ずっと残っています。
望んだり生きたりすることは、なにも大仰に考えることはない。本当にささいなことでもいいから、「望むこと」「生きること」をやめずにいること。幸不幸を考えるよりそのことが重要なのかもしれない。
望むことが「週末にケーキ買って食べよう」だったり、生きることが「明日の朝もとりあえず起きよう」「自分は生きていたいから生きているんだ」だったり、そのレベルでもいいと思うのです。

落ち込んだりしてぐずぐずになったときに、とりあえず顔を上げて動き出すきっかけになる言葉です。

 

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「無理をしないための言葉」について書いてみたいと思う

「ポジティブであるための名言」が、たくさん紹介されています。
ポジティブになることを薦める本もたくさんあります。
ポジティブであることが大切なのはよくわかる。
でも、ポジティブであり続けることって、(少なくとも自分にとっては) 結構しんどいことでもあります。

もともとかなりネガティブな人間なのですが、一時期「これではいけない、ポジティブにならなくてはならない」と思ってポジティブシンキングを身につけようとしました。
その結果、ものすごく疲れてしまったんですね。必死でポジティブになろうと考えている自分に対して、怒りが湧いてきたことすらありました。
ポジティブになろうとしている自分に疲れるだけでなく、ポジティブさにあふれている人といると、同じように疲れてしまったり (ポジティブな人の存在を否定するものではありません、念のため)。

ポジティブであることはいいことなのに、なんで自分はこんなに疲れたり怒りを感じるのだろう。
そんな風に自己嫌悪に近いものを感じたこともあったのですが、ある時気づきました。

「自分に必要なのは『ポジティブ』じゃない、『必要以上にネガティブにならない』ことだ」
「別に普段ネガティブだっていいんだ、ネガティブになりすぎて辛くならないようにさえすればいいんだ」

こう思うようになってから、すごく楽になりました。
今でも自分は「ネガティブな人間」だと思いますが、ネガティブすぎて辛かった時や必死でポジティブになろうとしていた時と比べると、精神的にかなり楽になりました。

これから、ネガティブになりすぎそうだったり疲れて辛くなってしまいそうな時に、それを止めてちょっと楽になれるような言葉について書けたら、定期的にそんな言葉をご紹介できるようになれたら、と思っています。

というわけで、最後にそんな言葉をひとつご紹介します。

 

せけんなど、どうでもいいのです。おひさまいっこ あれば
(やまだ紫「性悪猫」から)

 

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