《書評》本との向き合い方の1つのモデル〜読書と社会科学

社会科学では、概念という装置を使って物事の本質を見極めようとします。自前の「概念装置」をどのように獲得するか、そのためにはどう本を読むべきか、という話が中心にあります。
この本の後半は、大学で実際に社会科学を学んでいる学生向けの講義をベースにしているせいか、わたしには難しいと感じられました。しかしこの本全体を通して出てくる「本をいかに読むべきか」という提言や、前半の読書会に関する記述はとても興味深かったです。
これは読書会をめぐる2つの問題「本をどう読むか」「どうすれば実りのある、持続的で楽しい場にすることができるか」について、著者が実際にとある読書会で講演した内容をベース再構成したものです。

読書会が楽しく育ってゆくかどうかの鍵は「聴くこと」にある。上手に聴くこと、一人一人がどの程度聴き上手か。
皆が下手に「話し上手」になって、結果として話し下手の人の口ごもりながらの発言を圧倒するようなことは避けなければならない。
これでも思い出したのが、現在自分が参加している名古屋ライフハック研究会。ここは「読書会」ではないのだけど、読書に関する関わりは深いと思う。ここでたくさんのいい本に出会っているからであり、1つの本を何人かで読み、お互いに付箋を貼り付けたりして読みの違いを確認する、という新たな楽しみを発見したからです。
この会は、「聴く」ことがよくできている場だと個人的には思います。本に対する評価は人それぞれだし、「とてもよい」といわれて借りた本が自分に合わなかった、と言うことは当然あり得るわけです。それでも、お互いの評価をちゃんと聴く姿勢があるから、次に本を薦められても手にとって読んでみよう、と思える。
わたしは単なる参加者に過ぎないので「楽しい」と言っているだけで済みますが、実際に運営しているスタッフの皆さんの苦労はいかばかりかと思います。すばらしい場を運営しているスタッフの皆さんにお礼申し上げます。

話を戻して。
この本の中に出てきたキーワードで、気になったものを挙げます。

「本は読むべし読まれるべからず」
本は読まなきゃ損。いい本は、上手に読めば、読んだだけの甲斐があったと思わせるだけのものがある。本でモノが読めるように、そのように本を読む。それが「本を読む」ということの本当の意味である。

「情報として読む」「古典として読む」
「情報として読む」は、文字通り新しい情報を取り入れるために本を読む読み方。「古典として読む」は、情報を見る眼の構造を変え、情報の受け取り方、自分にとって有益なものの考え方、求め方を変えていく読み方、すなわち
「情報を受取る眼を養うための読書」。
「情報」「古典」とありますが、一般的に言われる「情報」「古典」がそのまま当てはまるわけではない。「古典として読まれる雑誌(例として「暮しの手帖」が挙げられている)」「(案内という意味での)情報を得るために古典を読む」もあり得るわけです。

「信じて疑う」
本を読むときには、仮説的に信じて読む。信じなければ内容に踏みこめず、適当にしか読めない。信じて読むからこそ、解くべき問題や新たな創造につながる疑いを見つけることができる。しかしだからといって著者を盲信してはいけない。自分の読みに対する信念がなければ精読はできない。
本をよく選んで、一度選んだからには、そのときの自分の読みと本そのものを仮説的に信じて、本文を大切に、踏み込んで深く読む。
いい加減に読むくらいなら読まない方がいい。

「みだりに感想文を書くな」「感想にまとめやすい形で読むべきものじゃない」
本をていねいに読むためには、読みっぱなしにせずに書くことで感想をまとめておくことが大切。自分が読んだことを他人に伝えられる「独立した文章」にまとめあげる努力を通じて、初めて自分にもはっきり分かることがある。
しかし、感想を狙いに本を読んではいけない。最初から
「まとめやすい形」での感想を求めて掬い読みをしてしまうと、せっかく古典を読んでも、もっともいいところを取り逃がしてしまう。

著者は読書の対象として経済学 (やその他社会科学) の専門書が念頭にあるのだと思います。
しかしここに取り上げた教訓は、ビジネス書や自己啓発書を読むときの姿勢にも当てはまるものでしょう。
そもそも自分は「読むこと自体が楽しいから」読書をしているし、ビジネス書の類はあまり読まないんだけど、読むときの一つの指針になるかなと思う。
そして「概念装置」という言葉、学問上の話ではあるけれど、学問から離れたところでも自前の「概念装置」を持つことは重要だと思う。それを手に入れるためにすべきことの指針になると思います。

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