今年出会った、とても印象的な本について
今年は今日までに75冊の本を読みました。昨年読んだのが63冊だったので、だいぶ多いですね。
その中から特に印象的だったものをご紹介します。
武田砂鉄『紋切型社会——言葉で固まる現代を解きほぐす』
世の中には言葉があふれているけど、自分になじむ物ばかりではありません。聞いて「?」がともる言葉もある。そんな言葉の裏側にあるものを見せてくれる本。
「?」を感じる力を持ち続けること、感じるだけでなくきちんと対峙する事の大切さがわかります。
非常に気になる書き手、武田砂鉄さん。彼の文章は、今後も追いかけていきたい。
朝日出版社
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岸政彦『断片的なものの社会学』
NHKの「ドキュメント72時間」。毎週録画して見ている唯一の番組です。
この本とは全く無関係なのですが、わたしはどちらにも同じ理由で惹きつけられるのかな、と感じました。
どちらも登場する人々が見せる面は、人生のほんの一瞬に過ぎません。それだけで人を判断するのは危険だけど、でも一瞬だからこそ、その人らしさが非常に強く出るのかもしれません。
「普通の人の一瞬」と、それに誠実に向き合う著者の姿が、じんわりと胸にしみます。
デイヴィッド=フィンケル・古屋美登里訳『帰還兵はなぜ自殺するのか』
読み終わって、非常に気が重くなった本。しかし読んでよかったと思います。
主にイラク戦争に従軍したアメリカ兵を追跡しているのですが、兵士自身もその家族も、軍部も医療関係者も、「帰還後」どうすればいいのか決めあぐねているように感じました。
戦場から帰還しても、後遺症は続く。本人だけでなく、周囲の人も苦悩する。
「戦争の終わり」は非常に曖昧で、場合によってはいつまでも引きずられてしまうことがよくわかる。
この作品は映画になることが決まっています。公開されたら見てみようと思います。
亜紀書房
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開沼博『はじめての福島学』
「『福島難しい・面倒くさい』になってしまったあなたへ」という惹句が付いている本。
東北出身で現在は遠く離れた場所に住むわたしにも、「福島難しい・面倒くさい」という気持ちがどこかにあります。
福島が「特別」になってしまったせいでしょう。この本はその「特別」を引きはがす効果があると思います。
福島の抱える問題の本質は何であるかを、公開されている統計資料等をもとに明らかにし、それらを前にどう考え、何をしていけばよいのかを提示する。
著者が福島で研究・発信し続けているからこその説得力があります。
読んでいて、頭の中の霧が晴れているような感じがありました。
イースト・プレス (2015-03-01)
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マーガレット=ミッチェル・鴻巣友季子訳『風と共に去りぬ 全5巻』
新訳が出たから読んでみるか、という軽い気持ちで手に取ったのですが、驚きの連続でした。
映画も見ていないわたしにとって、この作品のイメージは「すごく気の強い美人が主人公の長編ラブロマンス」だったのですが、全く違っていました。
まずスカーレット。気が強いどころの話じゃない。かなりひどい。ここまでヒール色の強い主人公も珍しいと思う。
わたしは彼女とは絶対に友達になれない。メラニーとも友達になれないと思うけど。
それに思ったほどロマンス要素は強くない。確かにレット=バトラーとの関係はとても重要だけど、それが中心という感じは受けなかった。登場人物としてはメラニーの方がはるかに重要では。
スカーレットはむちゃくちゃで、本当に強い。ひどい人間である一方、とても魅力的。今自分がすべき事だけを考え、他人の目など気にせずにそれをやり続ける。彼女なら、どんな時代がきても絶対に生き抜ける。
わたしは『風と共に去りぬ』は
「時代のうねりに翻弄されながらも、自分だけを頼りに怒濤の人生を生き抜いた女の一代記」
だと思ったし、だからこそ歴史に残るベストセラーになったんだと思いました。
新潮社 (2015-03-28)
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平山夢明『デブを捨てに』
思わずタイトル買いしました。
4つの短編が収められていますが、みんな暴力にあふれているし汚いしきつい。しかし同時に、どうしようもない優しさを感じるのです。ただ暴力的で汚いだけなら、読み通せなかったと思う。
いやあ、結構ひどかった (褒めてます)。
星野智幸『呪文』
なんというか、気持ち悪い小説でした。登場人物が誰も好きになれなかった。しかし、だからこそ読んでよかった。
この小説が持つ気持ち悪さの根源は、人物にせよ現象にせよ現に世の中に存在しているものだと思うから。
来年も、いい本にたくさん出会えるといいな。
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