《書評》ただ、絵に見とれる〜まっくら、奇妙にしずか

この絵本は、作者アイナール=トゥルコウスキィの大学の卒業制作で作られたものだそうです。トゥルコウスキィは、ハンブルグ応用化学大学のデザイン=メディア=情報学部でイラストレーションの講座を受講した人です。

訳者あとがきで紹介されているストーリーはこんな感じ

どこからともなくやってきた見知らぬ男。正体のさだかでない「よそ者」に町の人々は容赦ない視線をあびせ、ふくれあがる好奇心をおさえきれない。不思議なのは、その男のなりわいだ。空をゆく雲をつかまえて、そこから雨ならぬ魚を降らせている。だれも考えてみたこともない、雲からの漁り(いさり)。その秘密に気づくや、人々はむらむらと欲望をつのらせる。嫉妬と敵意をまるだしにして、男を追い出し、われもわれもとおそらくは彼らがけっして試みるべきでなかったことを試みる。その暴走が、自分たちの破滅につながることを知りもしないで—-。

特筆すべきは絵の美しさ。シャープペンシルだけで描かれたという絵の陰影の美しさ・緻密さはすごい。こんなものどうやって描いたのだ、と言いたくなる。例えば「望遠鏡をのぞく男の手の甲に浮かび上がる静脈」までが、非常に繊細に描かれているのです。
そして、「雲をつかまえる道具」「雲」「魚」他、出てくるあらゆるものの形の面白さ。独創的でグロテスクで、美しい。

絵だけでなくストーリーについても。あらすじは前出の通りですが、静かだけど実は怖い、という怪談めいた面もあり、一種の終末論でもあり、救いのない話だけれど、妙に心に残る話だった。

これは絵本ですが、完全に大人向けに描かれたものです。絵もややグロテスクな感じがするので、大人でも好き嫌いが分かれるかもしれない。でもわたしは、とても美しい絵だと思ったし、久々に「絵に見とれる」体験をしました。

まっくら、奇妙にしずか
アイナール トゥルコウスキィ
河出書房新社
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余談
「モノクロームの絵の美しさに見とれる」というと、たむらしげる「メタフィジカル・ナイツ」を思い出します。これは1990年に発売されたCGの画集で、当時としてはかなり珍しかったと思います。モノクロームのCGに短いストーリーを組み合わせた構成で、とても美しい絵でした。今、手元にこの本がないのが残念。

メタフィジカル・ナイツ
たむら しげる
架空社
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