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新しい数学の表現に出会う〜数学はあなたのなかにある

表紙だけ見たら、数学の本だとは思えません。内容は絵本とまんがの中間みたいな感じ。
計算や論理、図形などなどが人間関係に置き換えられて表現されています。
例えば四則演算は、男女が出会い、子供が生まれるまで過程になぞらえられます。
そして「直角三角形の外心円の中心は斜辺上にある」という「直角三角形の外接円の定理」。これも驚きのストーリーで語られます。
どちらも「こんな表現方法があったのか」という驚きました。「確かにこういうとらえ方もできるかも」の連続です。

ここで思い浮かんだのが「数学ガール」。
「数学ガール」が問題を考え解く楽しさを教えてくれるとしたら、この本は数学が自分とはかけ離れたものではないことを教えてくれます。
「数学ガール」は小説とはいえしっかりした数学の本で、2冊の雰囲気はかなり違いますが、学校の授業ではわからない数学の一面を教えてくれる点は同じだと思います。

この本の中に

もし数学を複雑だというなら、それは人が複雑にできているからこそ。

ということばがあります。
こういう視点を持てると、数学がただ面倒なだけのものではなくなるはずです。
著者は舞台美術が専門です。数学が専門の人ではないからこそこういう本が生まれたのだと思います。

この本を読んだらすぐに数学がわかるようなるとか、テストの点数が上がるということにはならないでしょう。でも、数学に対する敷居をすごく低くする効果があると思います。
数学が苦手な人、数学なんて意味がないと思っている人にこそお勧めしたい本です。
まさに「数学はあなたのなかにある」ことが実感できます。

 

数学はあなたのなかにある
クレマンス・ガンディヨ
河出書房新社
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数学ガール (数学ガールシリーズ 1)
結城 浩
ソフトバンククリエイティブ
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《気になる》地獄絵を旅する: 残酷・餓鬼・病・死体

絵本地獄」が売れているらしいですね。子供のしつけに使われるケースが多いとか。
この絵本をしつけに利用することの是非はおいておいて、確かに地獄絵のイメージは子供に限らず強烈に印象づけられます。

昔どこかで「地獄のイメージは非常にはっきりしているのに、極楽のイメージがぼんやりしているのはなぜか、宗教家に『極楽はどんな場所か』と問うても、明確な返事が返ってこない」という趣旨の文章を読んだことがあります。
確かに地獄はわかりやすい。そこから立ち上る恐怖や苦しみのイメージがとても具体的です。
悪がやはり具体的な恐怖や痛みのイメージを伴うのと通じるものがありますね。

わたしは地獄絵をきちんと見たことがありません。それもあってこのムックは気になります。細野晴臣寄稿しているのも非常に気になる。

 

地獄絵を旅する: 残酷・餓鬼・病・死体 (別冊太陽 太陽の地図帖 20)
平凡社 (2013-06-27)
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絵本地獄—千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵
白仁成昭 宮次男
風濤社
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「はじめての美術 絵本原画の世界 2013」に行ってきました

名古屋市美術館で開催中の「はじめての美術 絵本原画の世界2013」を見てきました。

子供の頃に読んだ絵本の原画がたくさん。「わ〜なつかしい」の連続でした。

やはり印刷された絵と原画はかなり違います。印刷された絵は完全な「平面」ですが、原画は画材の凹凸が見えます。ホワイトの修正の跡があったり、紙を切って絵の位置をずらしてあったり。
個人的に原画と絵本で印象がずいぶん違うな、と思ったのが中谷千代子「いちごばたけの ちいさなおばあさん」。絵本では原画が描かれたキャンバス地の凹凸がわかりにくいせいかもしれません。
大村百合子 (山脇百合子) の「ぐりとぐら」「そらいろのたね」は全ページ展示されていました。今年は「ぐりとぐら」誕生50周年だそうです。
一番嬉しかったのは矢吹申彦「きょうりゅうが すわっていた」。矢吹申彦さんの (印刷された) 絵は色々なところで見てきましたが、原画は初めて見たのです。見られてよかった。

絵本というのは、確かに子供が初めて出会う美術なんですね。懐かしい絵本にたくさん出会え、絵本だけでなく原画の良さにも触れられた楽しい展覧会でした。

 

いちごばたけの ちいさなおばあさん (こどものとも傑作集)
わたり むつこ
福音館書店
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ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)
なかがわ りえこ
福音館書店
売り上げランキング: 804

 

きょうりゅうがすわっていた こどものとも 2000年12月号
市川宣子
福音館書店
売り上げランキング: 201,031

 

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《気になる》ざっそうの名前

見慣れていても、名前を知らない雑草はたくさんあります。普段目につく雑草はある程度大きかったり花がついたりで目立つものがほとんどでしょうから、実際には存在に気づいていなかった雑草もたくさんあるでしょう。
雑草の名前をたくさん知っていても、それが何かの役に立つわけではないけれど、名前の分かる植物が増えると、毎日がちょっと楽しくなるかも。
この本は絵がすべて刺繍で表現されています。それぞれの植物の特徴を、どんな風に表現しているのか。子供向けの絵本ですが、刺繍の作品集としても楽しそうです。

 

ざっそうの名前 (福音館の科学シリーズ)
長尾 玲子
福音館書店
売り上げランキング: 11,145

 

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今年もいい本に出会えた〜2012年の5冊

2012年も、いい本に出会いました。今年読んだ本から、特によかった5冊を紹介します。

半分のぼった黄色い太陽
2段組で厚さ3cm超あり、読むのに1ヶ月かかるかと思ったけれど、引き込まれて1週間で読了。「読まされてしまう力」のある小説だと思いました。ビアフラ戦争の悲惨さと壮大なラブストーリーを両立させた、すごい小説です。

半分のぼった黄色い太陽
チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ
河出書房新社
売り上げランキング: 299,175

 

オスカー・ワオの短く凄まじい人生
TRPGやSF、カリブ海の呪い、英語とスペイン語がない交ぜになった、むちゃくちゃ面白い小説でした。家族、友人、色々な人生と歴史が折り重なる、大きなうねりに身を任せる楽しさ。表紙も内容にぴったり。

オスカー・ワオの短く凄まじい人生 (新潮クレスト・ブックス)
ジュノ ディアス
新潮社
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アライバル
ショーン=タンが日本で広く知られるようになったきっかけの1冊。わたしは洋書で読みました。息をのむほどの絵の美しさ、新天地に到着した人々への視線の優しさ。つらい気持ちをふわりと解いてくれるような絵本です。

アライバル
アライバル

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ショーン・タン
河出書房新社
売り上げランキング: 26,191

 

屍者の帝国
伊藤計劃の「新作長編」が読めたことと、わずかなプロローグからこれだけの物語を紡ぎ出した円城塔に拍手を送りたい。世界を股にかけた大冒険小説。とても楽しく読めました。
そして可能なら、ぜひ続きを書いてもらいたい。物語の最後で目を開いたフライデーのその後が読みたい。

屍者の帝国
屍者の帝国

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伊藤 計劃 円城 塔
河出書房新社
売り上げランキング: 1,933

 

ナチスのキッチン
第1次大戦後からナチス時代の、ドイツの台所・食事の変遷を追った研究書で、非常に興味深いものでした。台所という場の変遷、食べることの意味の変遷。台所というありふれた場所の持つ意味が、この本を読むことで変わります。「ナチスのキッチン」は、現代日本と無縁な場所ではありません。食に関心がある人はぜひどうぞ。

ナチスのキッチン
ナチスのキッチン

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藤原 辰史
水声社
売り上げランキング: 107,073

 

去年くらいから古典・外国文学・SFを中心に読んでいこうと思い、これらを中心に探してきました。その中でも外国文学の面白さに触れることができた1年だったと思います。
今年はあまり古典を読まなかったので、来年は読むようにしたいです。

 

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《気になる》エリック

わたしの一押し絵本「遠い町から来た話」に、「エリック」という短編が載っています。ホームステイにやってきた交換留学生の話です。
迎えた家族はエリックが喜ぶだろう、と思うことをやるものの、本当に喜んでもらえてるのかわからない。そしてある日、エリックは帰国して…という話です。この話は見開きの絵で終わっているのですが、この絵がとても美しく、涙が出ました。
そのエリックが主人公の本です。「遠い町から来た話」掲載以外のエピソードも楽しみです。

ショーン=タンが描く世界はとても優しい。その優しさに触れて、じわっときてしまうのです。そして圧倒的な絵のうまさ。「アライバル」の雲の描写なんか息をのむくらいすごい。
彼の作品は、色々な人に見てもらいたいと思います。

 

エリック
エリック

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ショーン・タン
河出書房新社
売り上げランキング: 97094

 

遠い町から来た話
遠い町から来た話

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ショーン タン
河出書房新社
売り上げランキング: 134407

 

アライバル
アライバル

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ショーン・タン
河出書房新社
売り上げランキング: 142358

 

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《気になる》サティさんはかわりもの

先日名古屋市立大学で開催された「ビブリオバトル首都決戦予選会(1)」を観戦してきました (ビブリオバトル首都決戦2012についてはこちら)。
ビブリオバトル自体初めてだったのですが、飛び入りで発表もしてしまいました (ただし今回社会人は発表のみでチャンプ本の対象にはならない)。

今回のビブリオバトルでチャンプ本になったのがこの絵本です。
エリック=サティの生涯を、楽しい絵と言葉で綴った本。対象は「子供から大人まで」。
表紙のサティがとても楽しそうな感じがして、読んでみたくなりました。

現在サティの音楽は色々な場所で聞くことができます。しかし音楽家サティがどんな人だったかはほとんど知りません。
彼は相当に変わった人だったようですね。現在では当たり前になった音楽も、彼が生きていたときには相当に斬新なものだったのでしょう。
サティが音楽を担当し、ピカソが衣装を担当したバレエがあったことも初めて知りました。バレエとして上演されることはなく、音楽のみが演奏されるばかりのようですが、バレエも見てみたいです。

 

サティさんはかわりもの
M.T. アンダーソン
BL出版
売り上げランキング: 462498

 

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《気になる》ロスト・シング

2011年の10冊」にも入れた「遠い町から来た話」。この本の作者ショーン=タンの最新刊です。「遠い町から来た話」と同じく岸本佐知子さん訳。

「遠い町から来た話」は図書館で借りて読んだのですが、読了後すぐさま買いに走りました。
こんな素晴らしい本は、ちゃんと手元に置いておかなきゃならないと強く思ったのです。美しい絵と美しいストーリー、美しい言葉。
今回もきっと間違いない。美しく新しい世界にひたりたい。
「ロスト・シング」って、映画になってアカデミー賞まで受賞してたんですね。日本公開はないのでしょうか。公開されたら見に行きたい。

ところで明日、代官山蔦屋書店で「岸本佐知子さんミニトーク&サイン会」などという、素晴らしすぎるイベントがあるではありませんか。行けませんがorz

 

ロスト・シング
ロスト・シング

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ショーン タン
河出書房新社
売り上げランキング: 4183

 

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今年もいい本に出会えた〜2011年の10冊 #10book2011

 

昨年に引き続き、@stiloさんの企画「#10book2011」に参加します。

 

2011年に読んだ本から10冊選んでブログで発表しよう! #10book2011 – stiloの25時間目

 

 

 

 

読むのが遅いので1年で読んだ冊数は多くありませんが。
2010年と同様、順位はつけません。

書肆小波の「2010年の10冊」はこちら
2010年の10冊 #10books2010 – 書肆小波

 

 

 

 

 

強く生きるために読む古典
読書記録はこちら

生きるための古典 〜No classics, No life!」は、日経ビジネスオンラインの連載の中でも一番好きです。
本の力だけでなく、言葉の力についても気づかされた1冊。
この本(と連載)に取り上げられた本は、まだ少ししか読めていませんが、来年も引き続き挑戦していきます。

強く生きるために読む古典 (集英社新書)
岡 敦
集英社 (2011-01-14)
売り上げランキング: 142749

 

論理哲学論考
読書記録はこちら

「生きるための古典 〜No classics, No life!」を見て挑戦した本からはこれを選択。
正直言えば内容はわからなかったけど、それでも思考を紡ぐ言葉の力強さ、ひりひりする緊張感がすごかった。

論理哲学論考 (岩波文庫)
ウィトゲンシュタイン
岩波書店
売り上げランキング: 7015

 

生きるチカラ
読書記録なし

第7回西三河朝会の課題として取り上げた本ですが、これは読んでよかった。よくある自己啓発書とは違った視点で、自分のやるべきことについてヒントを得られました。

生きるチカラ (集英社新書)
植島 啓司
集英社 (2010-07-16)
売り上げランキング: 77450

 


悪童日記
一九八四年
ハーモニー

「悪童日記」読書記録はこちら
「一九八四年」読書記録はこちら
「ハーモニー」読書記録はこちら

「ぞわっときた」小説3点。「悪童日記」「一九八四年」は定番中の定番ですが、もっと早くに読めばよかった。
伊藤計劃は「虐殺器官」も「ハーモニー」もどちらも衝撃的でしたが、最初に読んだ「ハーモニー」を選択。

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)
アゴタ クリストフ
早川書房
売り上げランキング: 14550

 

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
早川書房
売り上げランキング: 1161

 

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)
伊藤 計劃
早川書房
売り上げランキング: 4983

 

四十路越え!
読書記録はこちら

実にいいタイミングでこの本に出会ったと思います。自分がしていることは間違っていない、という励みになりました。この先の人生を乗り切るためのカンフル剤になったと思います。

四十路越え!
四十路越え!

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湯山 玲子
ワニブックス
売り上げランキング: 59787

 

巡礼コメディ旅日記—僕のサンティアゴ巡礼の道
読書記録はこちら

旅のよさを再認識。紀行文学としても自己啓発書としても非常によかった。
ここに書かれたような旅と出会いを、自分もできればいいな。

巡礼コメディ旅日記——僕のサンティアゴ巡礼の道
ハーペイ・カーケリング
みすず書房
売り上げランキング: 232713

 

ねにもつタイプ
読書記録なし

「しなやかな頭」「しなやかな言葉」とはどういうものか、この本を読めばわかります。
直接役に立つことは何も書いてないけれど、読んで笑いながら頭を軟らかくできる本です。

ねにもつタイプ (ちくま文庫)
岸本 佐知子
筑摩書房
売り上げランキング: 25629

 

遠い町から来た話
読書記録はこちら

「大切にしたい何か」にあふれている、涙が出るくらい美しい本。これは読んで本当によかった。心の中に「大切にしたい何か」をいつもしっかり抱いている人間になりたい。

遠い町から来た話
遠い町から来た話

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ショーン タン
河出書房新社
売り上げランキング: 1088

 

これらからベスト3を挙げると「強く生きるために読む古典」「巡礼コメディ旅日記—僕のサンティアゴ巡礼の道」「遠い町から来た話」の3点。今年はいい本に出会えたと思う。

 

 

次点
東京トンガリキッズ
東京トンガリキッズ2011

読書記録はこちら

「東京トンガリキッズ2011」は東日本大震災のチャリティで書かれた短編小説で、「東京トンガリキッズ」は再読なので次点としました。
友人に借りて「東京トンガリキッズ」を読んだのは約20年前。
「東京トンガリキッズ」にしても「東京トンガリキッズ2011」にしても、「世界が終わる日」が非常に重く響きます。

やはりこの言葉は心に響いた。


NO FUTURE、 NO CRY
(未来はないけど、泣いちゃだめだ)
(「東京トンガリキッズ」p219 一九八九年一月七日のパンクロック)

東京トンガリキッズ (角川文庫)
中森 明夫
角川書店
売り上げランキング: 130044

 

「東京トンガリキッズ2011」は期間限定 (2012年3月まで) コピーフリーです。フリー期間は当サイトで読めるようにしてあります。
本文はこちら (リンク先pdf)。
また、奥付に「当サイトでの販売金額 (500円) もしくは任意の金額の、義援金としての日本赤十字社あて送金をお願いしたい」旨の注記があります。

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心にふわりと灯りがともる〜遠い町から来た話

この本を知った直接のきっかけは、豊崎由美さんのこのツイートです。
これを見る直前に、この本の訳者岸本佐知子さんの「ねにもつタイプ」を読んでいて、これがすごく面白くて彼女が訳した本を読んでみたいと思っていたときだったので、とてもいいタイミングでした。

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