本は、頼れる仲間〜強く生きるために読む古典
日経ビジネスオンラインの連載「生きるための古典 〜No classics, No life! 」から抜粋・再構成された本です。
ブックガイドですが、よくあるブックガイドとは違います。「できそこない」の岡さんが、生き抜くためにどう本を読み、そして世界に向き合ってきたか。その記録ともいえる本です。
岡さんの言葉は、とても心に響く。読んでいて、魂の叫びを聞いているような気がしました。これだけ著者の思いをストレートに表現した本は (特に新書では) 最近では珍しいと思う。
読み方がどうの解釈がどうの、なんて些末なこと。自分の考えで本に向かい、生きることに向かう。困難を乗り越える際の武器としての本、生を肯定するきっかけ探しとしての本。そういった本に真摯に向き合い、そして生きることに向かう姿に心を打たれたのだと思う。
この本そして連載のキーワードは「垂直の言葉」。
これはプラトン『パイドロス』を取り上げた回「真実を求めよ! 真実らしさを求めるな!」に出てくる言葉です。
その部分を、ちょっと長いですが引用します
キョロキョロと周囲を見回して、他人の言葉や、その場のムードや、自分たちのノリに合わせて、自動的に綴られていく、切実さのない言葉。
そんなふうに口にされたり記されたりする言葉を、「水平の言葉」と呼ぼう。水平の言葉は明るく、軽く、受けがよくて流通しやすい。
しかし、洗練されていることだけが取り柄の、何の実感もない水平の言葉ばかり使い続けていると、自分の言動のすべてが嘘臭く感じられてくる。
自分が、見せかけだけの作り物、ニセモノのように思われてくる。何かに操られているかのようでもある。
自分と自分の生の間に隙間ができる。生が色を失い、手応えを失い、やがて自分が希薄になっていく……。(中略)
そんな状態のぼくを、『パイドロス』は批判した。
(中略)
「水平に言葉を使うな、垂直に言葉を使え」。
どのページにも書かれていない表現だが、そんなふうに言われているのだと思った。
「垂直に」、つまり自分のかけがえのない経験を、そのいわく言い難いところを、何とか言葉で言い表そうと努力せよ。あるいは高く、天上へ目をこらし、決して届かないその場所へ言葉を差し向けよ。
たとえ、垂直の言葉を使った結果、文脈がとぎれたり、場が壊れたりしても、気にするな。ひたすら縦に、どこまでも深く、あるいは高く、1ミリでも真実に近づくように言葉を用いよ。(中略)
力不足は明らかだが、絶対に、ぼくは水平の言葉に逃げてはいない。
(中略)
ここ、この場所では、何が何でも、言葉を垂直に使うと決めているのだ。
汚れた手、不様で格好悪い手には違いないけれど、何とかして天を、ぼくの真上にある月を指そうと、大まじめに、全力を尽くしている。ぼくは本気だ。
日経ビジネスオンライン「生きるための古典 〜No classics, No life! 」は今も連載中です。これからここに取り上げられた本を読んでいこうと考えています。
今はウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」に挑戦中です。毎日読んでいるわけではなく、さらに読むのは1回10ページ程度なので、遅々として進んでいません(^^; 内容も分かっていませんが、わからないなりに引き込まれるものがあります。
古典を読みたいと思っていた矢先に出会った「生きるための古典 〜No classics, No life! 」。本当にいいガイドに出会ったと思います。
一つ残念だったのが、連載時に掲載されていた各古典の著者のイラストが、新書ではなかったこと。さすがにカラーは難しいでしょうが、モノクロでもいいから載せてほしかったな。
集英社 (2011-01-14)
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あとがき
その1
日経ビジネスオンラインに、岡敦さんとお兄さんの岡康道さんと「早稲田文学」ディレクターの市川真人さんとの鼎談「就活生に「上から目線」と言われた兄、「次はいつ?」と慕われた弟」が掲載されています。これも面白いです。岡敦さんが教壇に立った授業、受けてみたかったです。
その2
日経ビジネスアソシエ 2011年 2月1日号の特集で、岡さん推薦の古典が紹介されているのですが、その記事の中に
実のところ、生き方に迷ったり悩んだりした時に、本を読んで助かったことなんてないような気がします。どちらかというと、生きて経験を積むと、昔読んでも分からなかった本が少し理解できるようになる。だから、本を読むと人生の役に立つというより、生きていることが、本を読むのに役立つんですよ (p45)
という岡さんの言葉があります。これは自分自身が最近よく感じます。20代で読んで分からなかった本の一節が、最近になって「ああ、そういうことだったのか」と実感できたりする。
こういう瞬間があるから、本を読む意味ってあるんだろうし、自分は本を読むのかもしれない。
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