月: 2013年5月

あたまがふるふるになる〜なんらかの事情

岸本佐知子さんのエッセイを読むと、脳が柔らかくなってくる気がします。普段は五箇山豆腐みたいな感じなのが、ふるふるのゼリーになる感じ。
書かれている内容も、現実にあったと思われるエピソードから虚実曖昧なものまでありますが、読んで楽しいから、ここではそんなことは気にしません。

例えばアロマテラピーにはまったときのエピソード。各種オイルや道具を買いそろえ、本格的にアロマテラピーにはまった時。ふとしたきっかけで素敵なアロマ生活が一瞬で崩れてしまった。その瞬間の描写におなかがよじれる。
あるいは読書をしているとき。ごくごくありふれた読書中の描写のはずが、気がつくと怖いことになっている。
この「気がつくと」の瞬間が、岸本さんのエッセイの一番の読みどころだと思っています。

岸本さん編訳の短編集「居心地の悪い部屋」のあとがきに

 昔から、うっすら不安な気持ちになる小説が好きだった。読み終わったあと見知らぬ場所に放り出されて途方に暮れるような、なんだか落ちつかない、居心地の悪い気分にさせられるような、そんな小説。

(中略)

 何か一つ話を読んだあと、そんな気分になれたら嬉しい。もちろん、すっきり爽やかな気分になって、自分の立っている地面のゆるぎなさを再確認するような読書体験も素晴らしいけど、もしも小説を読むことが電車に乗るようなものだとしたら、降りたときに元いた場所と同じところに立っているのではつまらないじゃないか、とも思うのだ。

「居心地の悪い部屋」p210〜211『あとがき』

とあります。

岸本さんのエッセイは、いつの間にか知らない場所に連れていかれるけど、そこには意外ときれいで心地いい景色が広がっていた、という感じがします。「こういうエッセイを書ける人だから、ああいう訳文が書けるんだ」と思いました。

岸本さんのエッセイを読むと、しなやかな心、しなやかな言葉がどんなものかがわかります。

 

なんらかの事情
なんらかの事情

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岸本 佐知子
筑摩書房
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居心地の悪い部屋
居心地の悪い部屋

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角川書店(角川グループパブリッシング)
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《気になる》バーナード嬢曰く。

“名著礼賛”ギャグ、だそうです。表紙にある

一度も読んでないけど
私の中ではすでに
読破したっぽい
フンイキになっている!!

というセリフにやられました。
わかるなぁ、これ。わたしにも読んでないのに読んだ気になってる本があるし、どんどん読みたいと思う一方で、本を読まずに読んだことにしたい、と思っちゃうこともあります。きっと読書する人は、多かれ少なかれ似たようなことを思うのでしょう。
取り上げられている本には、読んでいるものもそうでないものもあります。読んでないものは、このまんがで読んだ気になれるかしらw
でもここはやはり、読んでないものも読まないといかんでしょうね。

「読書家あるある」にあふれた本、楽しそうです。

 

バーナード嬢曰く。 (REXコミックス)
施川 ユウキ
一迅社 (2013-04-19)

 

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《気になる》自分はバカかもしれないと思ったときに読む本

「14歳の世渡り術」というシリーズの1冊ですが、このタイトルは40代の自分にもぐさっと来ました。
情けないけど「あー、わたしってバカなのかも」なんて、しょっちゅう思っています。
だからといって、何かをやったからいきなり頭がよくなるわけでもないでしょう。知識を詰め込めばいい、というものでもないし。

Amazonの紹介文に

バカはこじらせなければ大丈夫

とありますが、確かにそうかも。
「バカだからなんだ」と開き直るといかんかもしれませんね。いい年してバカをこじらせても痛いだけだし。
せめてこの先、これ以上頭を硬くしないように気をつけたいものです。
中高生向けの本ではありますが、「素直なバカ」であるためにも、この本は役立ちそうです。

 

自分はバカかもしれないと思ったときに読む本 (14歳の世渡り術)
竹内 薫
河出書房新社
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《気になる》身近な危険から自分を守る! ゆるサバイバル入門

これまで身の危険を感じるような目に遭遇したことはありませんが、困ったトラブルは何度かありました。そういうことにぶつかってしまうと腹が立つし気持ちも消耗してしまいます。トラブルなんかないに越したことはない。
しかし残念ながらそれは突然やってきます。来てしまったものはしようがないから、自分自身でうまく対処するしかありません。対処できるかどうかで結果はかなり違ってくるし、精神的な傷を大きくしないで済むかもしれない。
でもトラブルに遭遇しまい、として目をつり上げて生活するのも疲れてしまうから、この本のタイトルのように「ゆるサバイバル」ができるといいかもしれませんね。

 

身近な危険から自分を守る! ゆるサバイバル入門
ふじい まさこ
新潮社
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《気になる》数学はあなたのなかにある

数学の本は一般向けでも文章で構成されたものが大部分です。そういう本は難しく考えず分からないところがあっても気にせず、読み物として楽しめばいいと思うのですが、実際にはとっつきにくかったりします。
この本はシンプルなイラストと短くユーモラスな文章、そしてまんがの構成を使った数学の本です。そして数学が人間の関係に置き換えられているようです。
Amazonにあるイメージでは、とても数学の本には見えません。おしゃれな絵本にしか見えない。こんなシンプルな構成でどうやって数学を語るのか。気になります。こういう本は、時間をかけてゆっくり読んでみたいものです。

 

数学はあなたのなかにある
クレマンス・ガンディヨ
河出書房新社
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《気になる》ざっそうの名前

見慣れていても、名前を知らない雑草はたくさんあります。普段目につく雑草はある程度大きかったり花がついたりで目立つものがほとんどでしょうから、実際には存在に気づいていなかった雑草もたくさんあるでしょう。
雑草の名前をたくさん知っていても、それが何かの役に立つわけではないけれど、名前の分かる植物が増えると、毎日がちょっと楽しくなるかも。
この本は絵がすべて刺繍で表現されています。それぞれの植物の特徴を、どんな風に表現しているのか。子供向けの絵本ですが、刺繍の作品集としても楽しそうです。

 

ざっそうの名前 (福音館の科学シリーズ)
長尾 玲子
福音館書店
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《気になる》吉祥寺が『いま一番住みたい街』になった理由

東京に住んでいたとき、吉祥寺には何度も行きました。しかし町のことはほとんど知りません。というのは、吉祥寺はライブハウスに行くために訪れる町だったので、駅とその周辺のごく限られた範囲、そしてライブハウスまでの道しか知らないのです。

かつての同僚に吉祥寺住人がいましたが、彼女はこの町を「武蔵野マダムとフリーターが同居する町」と評していました。
吉祥寺が「いま一番住みたい街」になるからには、それだけ魅力がある場所だと思います。商業施設が発達し、大きな公園もあり、高級住宅街でもある。
かつては農村だった場所に、これだけの町がどうやって形作られてきたのでしょう。通った割になじみが薄い町ですが、気になります。

 

余談
名古屋で住みたい町の第一位は藤が丘のようです。ここは地下鉄東山線からリニモに乗り換えるために通過したことがあるきりで、どんな町かはまったくわかりません。
栄も名駅も乗り換えなしで行けるし、東名高速名古屋インターも近いから便利な場所だとは思いますが。

 

吉祥寺が『いま一番住みたい街』になった理由
斉藤 徹
ぶんしん出版
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格闘技を知らなくても十分面白い〜ロシアとサンボ

サンボ(Самбо)はソ連そしてロシアの国技である格闘技です。
わたしは格闘技のことはほとんど知りません。なので「関節技ってなに」「アルゼンチン・バックブリーカーってどんなの」などと調べながら読んでいました。
わたしは著者と面識があり、それがこの本を手に取った直接のきっかけです。
この本ではサンボ成立・発展の歴史を中心に、ソ連のスポーツシステムの歴史も語られています。どちらも未知の世界なので、読んで驚きの連続でした。

サハリン出身の孤児、ワーシリー=オシェプコフが14歳の時に日本に留学、神田の神学校で学びながら講道館に通います。そして帰国後ウラジオストクで柔道クラブを設立。柔道にオシェプコフがアレンジを加え、さらにロシアの各民族に伝わるレスリング等の技が取り込まれ、サンボが形作られていきます。サンボは運動能力検定制度に採用され、ついには国技になります。
サンボはロシア人が作り出したものですが、日本には「廣瀬中佐起源説」という珍説があるそうです。この本の中で検証され否定されていますが、日本人にとって柔道が特別なものだからこそ、こういう説が出てくるのでしょうか。
柔道の影響を受けているサンボに対して、「柔道をまねて作ったもの」「日本柔道の焼き直し」という批判があるそうです。著者は歴史や技の検証、オシェプコフの技の写真や動画をサンビスト (サンボ選手のこと) と柔道家に見せ分析を依頼したりして、サンボは柔道の焼き直しではないことを示しています。この部分は門外漢にも面白かった。
著者は柔道・サンボ・ブラジリアン柔術の愛好者ですが、複数の格闘技を経験しているからこそ見えるものがあるのだろうし、それに加えてとても研究熱心な人だと思いました。

ロシアにとってのサンボがどういうものかを象徴するエピソードが出てきます。
現地取材のためロシアを訪れた著者は、シェレメチェボ空港からモスクワ市内に向かう途中、環状道路にサンボの看板が掲げられているのを発見します。その看板には青いサンボ衣を着た少年の写真と「Самбо」の大きな赤字、そして「健全な青年が、強い国家を作る」。これが約10メートル間隔で、10キロほど続きます。
そしてもう1つ。1970年設立の、現在ロシアで唯一の国立サンボ学校「サンボ70」のレポートが出てきます。ここは柔道・サンボによる教育を中心に、11年間の義務教育を行っています。サンボの授業は真剣そのもの。日本で格闘技を見慣れた著者から見ても高度な技を、10歳くらいの子供たちが使っています。
この学校のディレクターが「卒業生の多くは内務省、KGBなどの職員、軍人や警官として活躍してきました。サンボは男らしいスポーツであり、サンビストは危険な仕事に適した人材として重用されるのです」と語ります。さらに著者の「サンボ70は祖国防衛のためによき愛国者を育てているのですか」という問いに「その通り」と即答しました。

そして驚いたのがソ連のスポーツシステム。ソ連はオリンピックのメダル数で世界一、二を争う強豪国でしたが、国内でどのようにスポーツが奨励されていたかはまったく知りませんでした。
「労働および国防に備えよ」の頭文字を取った「GTO (ゲーテーオー)」という運動能力検定制度があり、国民はこれによって年齢ごとに定められたノルマを達成しなければならなかったこと。
アスリート向けの階級制度があり、これは競技力の向上だけではなく共産党の人事管理制度とも結びついていたこと。
スポーツの役割は、共産主義国家の優秀さ、共産主義イデオロギーの正しさを示す手段だったこと。
オリンピックの金メダル獲得数が国威発揚に利用されるのはソ連に限ったことではないと思いますが、それにしても凄まじい。

国家がスポーツを支援する例は多くありますが、あるスポーツの成立・発展の過程で国家の思惑が直接からむ例がどれほどあるのかは分かりません。
これはスポーツ全般に疎い人間の印象に過ぎませんが、格闘技以外のスポーツだとこうはならなかったような気がします。
ロシア人が作り出した格闘技だからこそ、共産主義イデオロギーと深く結びついたのでしょうか。

ひとつの格闘技が成立するまでに何があり、どういう思惑でそれが広まっていったか。
格闘技やロシア史の知識を持って読めばもっと踏み込んで楽しむことはできたと思いますが、知識はなくても十分面白かったです。

 

ロシアとサンボ -国家権力に魅入られた格闘技秘史-
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「それでも笑顔ではたらいてほしいからオススメしたい本があるッ!」に寄稿しました

それでも笑顔ではたらいてほしいからオススメしたい本があるッ!」に寄稿しました。
20代の人たちを対象に「はたらく喜び」「はたらく意義」「はたらく姿勢」について考え、「勇気づけられる、元気がでる」本を紹介していくサイトです。

 

それでも笑顔ではたらいてほしいからオススメしたい本があるッ!

 

今回紹介した本は、フランツ=カフカ・頭木弘樹編訳「絶望名人カフカの人生論」。内容的にはかなり後ろ向きだし、直接働くことに役立つ本ではありません。でも「勇気づけられる、元気がでる」本だと思うのです。
とかくポジティブであることが推奨され、ネガティブはだめ、と言われることが多いですが、でもわたしはネガティブになったときはその気持ちを認めどっぷり浸った方が、結果的には浮上しやすいと感じます。
それで今回「20代の、ポジティブがしんどいと感じている人たちへ」としてこの本を紹介しました。

他の方のおすすめ本はバラエティに富んでいて、どれも興味深いです。20代はとうの昔に過ぎたわたしでも「これは面白そう」という本を見つけました。

このような機会をくださったRecipSさん、ありがとうございます。

 

絶望名人カフカの人生論
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《気になる》鉄条網の歴史 ~自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明

確か中学の社会科教科書に、どこかの国境の写真がありました。二重の鉄条網で仕切られている国境です。
わたしが持つ鉄条網のイメージは、この写真に由来している気がします。
そこまで頑丈な鉄条網はさすがに見たことはありませんが、有刺鉄線やそれに類するものを使った仕切りは、自分の周囲にも多く存在します。
鉄条網は構造自体は非常に簡単です。そして他者の侵入を防ぐ効果も高い。だからこそ広く使われるようになったのだろうし、社会そのものや戦争にまで変化をもたらしたのですね。鉄条網がいったいどんな歴史をたどってきたのか、気になります。

人間の社会は「仕切られる」ことによって成り立っていることが多いんだな、と改めて思いました。その究極が国境かもしれませんね。

 

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