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おやじギャグってすごい〜わが盲想

思いがけない本に出会うことがあります。考えたこともなかったテーマで書かれていたり、意表を突く書き手だったり。「わが盲想」は、テーマも書き手も、いい意味で予想外でした。

著者は生まれながらの弱視で、12歳で視力を失いました。そして約15年前に鍼灸を学ぶためにスーダンから来日し、現在は東京外語大院で研究生活を送っています。
海外の視覚障害者が日本に鍼灸を学びに来ていることを初めて知りました。冒頭に「(鍼灸を学ぶための留学が) 今回スーダンにも募集が来てる」という言葉があったので、各国に募集が出ているのでしょう。つまり著者と同じ境遇の外国人が、結構日本にいるということですね。
鍼灸は日本とか中国くらいにしかないと思っていたので、世界各国から学びに来る人がいることに驚きました。

来日し、福井の盲学校に通い始めた彼は「正統な日本語と福井弁、東洋医学や西洋医学の専門用語、点字」の3つの言語をマスターする必要が出てきます。
そして日本語を覚える中で大きな役割を果たしたのがラジオとおやじギャグ。
ホームステイ先のお父さんからおやじギャグ講座を強要されたことがきっかけですが、日本語の面白さを知るきっかけになり、さらに漢字を覚えることもできたとのこと。
ラジオでは野球放送を通して、説明の難しい微妙な表現を学んだそうです。

ラジオはともかく、おやじギャグで日本語を覚えた人というのは初めて聞きました。
おやじギャグはとかくバカにされやすいけど、結構高度な表現ではないでしょうか。単語を多く知っていることと、それなりにギャグセンスとひらめきがないと難しい。
でも同音異義語を駆使するから、言葉どうしのつながりを考え実践する機会と考えれば、向いている人には格好のツールなのかもしれません。

日本に来て、彼の世界がかなり広がったように感じます。勉強面では、スーダンにいたときの著者は、教材を読み上げるなどして勉強を手伝ってくれる人がなかなか見つからず、苦労していたのですが、日本で多くの人の支援を受けられたこと、点字を覚えて自力で教科書を読めるようになったなどの変化も影響しているかもしれません。
さらにブラインドサッカーという新しいスポーツに出会ったり、NPOを立ち上げてスーダンの障害者の教育支援を始めたりしたこともあるでしょう。
人的にも物的にも適切な支援があれば、ハンディキャップがあってもできることが広がることを再認識しました。

本文中にもギャグが随所に現れていて「うーん」と思う箇所もありますが、読んでいてとても楽しかったです。
書かれていない部分で、実際には様々な苦労があったと思います。でも彼なりの方法で乗り越えてきたせいか、とても明るい感じがします。

外国人の日本体験記はいろいろありますが、「わが盲想」は今まで考えたこともなかった角度から書かれた本でした。今年これまでに読んだ中で、もっとも驚きに満ちた1冊です。

 

わが盲想 (一般書)
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《気になる》ファッションフード、あります。: はやりの食べ物クロニクル1970-2010

この本のタイトルを見てぱっと思い浮かんだのがティラミス。おそらく自分が初めて認識した「はやりの食べ物」がこれだったのだと思います。食事ならイタリア料理。今は完全な定番ですが、もともとは流行の料理というイメージがあります。
実際には、はやっていることを知らずに食べていたものも多いと思います。はやりから、最終的に定番化したものも。

どこかで「日本人がバランスのとれた食事ができるようになったのは1960年代に入ってからだ」と聞いたことがあります。この本は1970年からの「はやりの食べ物」を取り上げていますが、2つの年代にはなんらかの関連があるのでしょうか。
かつてどんな食べ物がはやっていたのか、と同時に、食環境の変化がどれくらい関わっているのか。その辺りが気になります。

 

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《気になる》安井かずみがいた時代

かなり昔のことですが、目を閉じた文化人の写真ばかりを集めた写真展を見に行きました。開催されていたのは確か銀座のギャラリーで、撮影者が誰かは忘れました。
作家や俳優など被写体は数十人いたのですが、記憶に残っているのは浅田彰、渡辺えり子、加藤和彦、安井かずみくらいです。
わたしが持つ安井かずみのイメージは、この写真そのままだな、と今気づきました。上質な服を着て目を閉じてほほえみ、モノクロームの写真に写っている姿。
そのせいか、この本の表紙にはちょっとびっくりしました。「イメージと全然違うな」って。加藤和彦と結婚する前のことをほとんど知らないせいもあるでしょう。
彼女が売れっ子作詞家だったことは知っていても、実像はあまり知りません。いったいどんな人だったのか、自分が受けたギャップがなんなのか。この本で追いかけてみたくなりました。

 

安井かずみがいた時代
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《気になる》鉄条網の歴史 ~自然・人間・戦争を変貌させた負の大発明

確か中学の社会科教科書に、どこかの国境の写真がありました。二重の鉄条網で仕切られている国境です。
わたしが持つ鉄条網のイメージは、この写真に由来している気がします。
そこまで頑丈な鉄条網はさすがに見たことはありませんが、有刺鉄線やそれに類するものを使った仕切りは、自分の周囲にも多く存在します。
鉄条網は構造自体は非常に簡単です。そして他者の侵入を防ぐ効果も高い。だからこそ広く使われるようになったのだろうし、社会そのものや戦争にまで変化をもたらしたのですね。鉄条網がいったいどんな歴史をたどってきたのか、気になります。

人間の社会は「仕切られる」ことによって成り立っていることが多いんだな、と改めて思いました。その究極が国境かもしれませんね。

 

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豚ってなんなんだろう〜愛と憎しみの豚

豚は非常にありふれた食材です。ありふれているが故に、普段特別意識されることもない存在だと思います。また豚を忌み嫌う人々もたくさんいます。
タイトルにもある通り、愛されると同時に憎まれる豚の存在を追いかけたこの本。
自分は豚についてほとんど何も知らなかったことがわかりました。

豚肉を食べないというとまずイスラム教教徒を思い浮かべますが、ユダヤ教徒も食べないことは知りませんでした。
しかしイスラム社会でもかつて豚を食べていたらしいのです。それが「なぜ豚肉を食べてはいけないのか」になったのか、わかっている人は少ないようです。それはユダヤ教でも同じらしい。

直接豚に関わらない部分でも、この本で知ったことがいくつかあります。

例えば「ジャスミン革命」は、欧米人の勝手なネーミングに過ぎないこと。チュニジアではこのネーミングを「馬鹿にしている」と思う人々がいること。

1991年のソ連崩壊前後に、ロシア地域から100万人の移民がイスラエルにやってきたのですが、その中にはユダヤ人に加えてソ連からただ逃げ出したかっただけの「なんちゃってユダヤ人」もいたこと。

ユダヤ人とユダヤ教の関わり。血筋的にはユダヤ人でも非宗教的な人も多いこと。「(自分の) ユダヤ人としての立ち位置は、日本人が持つ宗教との距離に少し似ている」と語るユダヤ人が登場します。

チャウシェスクがいた時代のルーマニアと現在のルーマニアで、何が違っているか。共産主義が崩壊したとき、ルーマニアには対外債務がなかったのだそうです。これは国際社会では珍しいケースとのこと。しかし現在は借金まみれになってしまった。

 

この本の中で特に印象的だった言葉を紹介します。

世界各国の兵士たちが、同じ釜の飯を食べる時代がやってきたのだ。
(p324「終章 素足の豚—シベリア『チタ』」)

そしてもうひとつ、

「どんな手がかり、小さなことでも構いません。養豚、農業、何でも構いません。私は豚を追っています。豚にまつわる何かを、見つけ出さなくてはいけません。それなのに、では豚の何が知りたいのかと訊かれても、きちんと説明できない。でも、追っている。なぜ豚を追っているのか、本当のところでは私自身にも分かっていません。でも、追わなければいけない」
(p304「終章 素足の豚—シベリア『チタ』」)

著者はなぜ豚を取材しているのかについて、こんな風に語っています。
三重県出身の著者にとって「肉=牛肉」でした。牛肉文化の中で生きてきた著者が20代の頃に豚肉を愛する人たちに出会い、豚に対する認識が変わったことが、この本に至る旅のきっかけといえます。
この本の一番の読みどころは、小さなきっかけから自分が知りたいと思ったことを追いかけ、何ヶ月もかけて世界を走り回り、シベリアの果てまでたどり着いた著者のフットワークかもしれません。

「豚とは何か」という結論はこの本には書かれていません。ただ、豚と人間との関わりの深さ、豚を中心とした食と社会・歴史の関わりの深さがわかります。
食は人間にはなくてはならないものだからこそ、歴史・政治・宗教との関わりが深くなる。その深さが顕著に表れるのが豚なのかも。
愛されるのも憎まれるのも、人間との関わりの長さ深さ故なんでしょうね。

この本で取り上げられている国・地域はチュニジア、イスラエル、日本、リトアニア、バルト三国、ルーマニア、モルドバ、ウクライナ、シベリア。日本以外のアジアやアフリカ、南北アメリカのエピソードも、読んでみたかった。

 

愛と憎しみの豚
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余談
わたしにとっても「肉=牛肉」です。実家ではカレー・肉じゃが・野菜炒め、全部牛肉でした。牛肉でなければ鶏肉。豚肉はたまに使われるくらいでした。豚肉を日常的に食べるようになったのは、大学進学を機に上京してからです。

実家で食べていた数少ない豚肉料理をご紹介します。

材料

  • 豚肉薄切り・プロセスチーズ
  • 小麦粉・卵・パン粉

作り方

  • プロセスチーズを拍子木切りにする
  • 切ったチーズを豚肉で巻く。巻いたら楊枝で肉を止める
  • 小麦粉・卵・パン粉をつけて揚げる

非常に簡単だけどおいしい。これは豚肉で作らなきゃだめです。

 

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《気になる》森林飽和—国土の変貌を考える

日本では森林が飽和している? 考えたこともありませんでした。
花粉症の人がここまで増えたのは、杉の木ばかりを植えすぎたせいだ、という意見があります。しかし猿や熊の人里への出没と森林飽和に関連があるとは。森林が少なくなったせいだとばかり思っていました。
森林飽和が原因で、海辺の道路が脅かされる「砂浜消失」が起きている、ともあります。しかし一方で森を豊かにすることで、その森を源流とする川の注ぐ海を豊かにする、という考え方もあります。並列に考えることはできないとは思いますが、わたしには両者は正反対の考えのようにも感じます。

森林に対して自分が抱いていたものと正反対の考えが書かれているこの本、気になります。

 

森林飽和—国土の変貌を考える (NHKブックス No.1193)
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《気になる》謎の独立国家ソマリランド

アフリカは、物理的にも心理的にも遠いところです。アフリカに対するイメージは「飢餓」「政情不安」などがどうしても先に来てしまいます。
しかし去年チママンダ=ンゴズィ=アディーチェの小説を読んで、アフリカはそれだけの場所でないと知りました。あくまでフィクションだけど、そこに書かれているアフリカ (この場合はナイジェリア) の姿は、実情から大きくかけ離れたものではないはずです。
そしてこの本。ソマリアは世界有数の危険地帯で国家も分断状態にあると言います。そんな中に平和な独立国家があるなんて知りませんでした。その国家は、ソマリアのイメージとはあまりにもかけ離れています。いったいどんな国なのか、そこに行くまでに何かあったのか。気になります。

 

謎の独立国家ソマリランド
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明日は遠すぎて
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半分のぼった黄色い太陽
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《気になる》飛雄馬、インドの星になれ!—インド版アニメ『巨人の星』誕生秘話

「巨人の星」がインドでアニメになることは、確かNHKのニュースで見て知りました。
このときは「なぜ巨人の星なんだ」という「?」が頭を駆け巡りました。
わたしはまんがでもアニメでも「巨人の星」を見た記憶がありません。そもそも野球に興味がない。スポ根ものの作品が日本以外で受け入れられるものなのかもわかりません。
現在、日本の様々なアニメが外国で放送されるようになりました。その中で野球選手をクリケット選手に置き換え、ストーリーに登場するものを現地の文化に合わせ…という風に作品を1から作っていくことには独特の苦労があると思います。
インド放映までにどんな苦労があったのか、ビジネスノンフィクションとして楽しめそうです。

 

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《気になる》愛と憎しみの豚

子供の頃、同じ保育園にいた女の子の家で子豚が生まれたので、みんなで見に行ったことがあります。実家は農村地帯で、農業の傍ら牛や豚を飼っている家も珍しくありませんでした。
豚は食料として欠かせない、人間にもっとも近い動物の一種でありながら、豚にちなむ言葉は否定的なものが多い。身近であり非常に「役立つ」動物なのに、どうしてなのでしょう。確かに不思議です。
豚に限った話ではありませんが、身近な食べものでそのルーツがわからないものは意外と多いのかもしれません。

余談ですが、単に「肉」と聞いたときに何肉を思い浮かべるかは結構地域差があるらしいですね。わたしは肉と聞いたら牛肉を思い浮かべます。豚肉も鶏肉も好きですが。

 

愛と憎しみの豚
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《気になる》ゼロからトースターを作ってみた

トースターを「ゼロから」作るって、どういうことをしたのでしょう。
鉄鉱石などを発掘して鉄板を作るところから? もちろんゼロから設計して、必要な工具も手作りするのでしょうか。
トースターの構造自体は非常に簡単なものですが、今あるトースターの概念をすべて頭から追い出して、本当にゼロから設計・製作しようとすると、膨大な時間と手間がかかるでしょう。それをあえてやってみようという著者の心意気がすごい。
トースターをゼロから作るのは車輪の再発明みたいなものだろうし、車輪の再発明には皮肉に近いイメージがあるけど、でもそれを真剣にやってしまうというのは、すごく楽しそうです。

 

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