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《気になる》きのこ文学大全
著者の飯沢耕太郎は写真評論家ですが、きのこの愛好家だったとは知りませんでした。
きのこ文学ってなんでしょう。きのこをテーマにした文学? 不勉強のため、該当する作品を思い浮かべることができませんでした。
きのこを食べるのは好きです。実家は田舎にあり、秋になると近所の人が山歩きで取ってきたきのこをいただくことも多くありました。現在は買ってくる物ばかりですが、冷凍庫にストックしておいて、色々な料理に混ぜています。
きのこを食べることをテーマにした作品ばかりが紹介されているわけではないでしょうが、なんだかとてもおいしそうです。
余談ですが高校で習った国語の先生のひとりが登山家で (当然ながら登山部の顧問をしていた)、授業中に山で取ったきのこの話を聞いた覚えがあります。内容は忘れましたが「食べられるきのこの見分け方」とか、採ってきたきのこを水につけて唐辛子を振ると虫がとれる、とか。試したことはありませんが。
この先生はわたしが卒業した後に結婚し、生まれたお子さんに山にちなむ名前をつけたそうです。
《気になる》魔術師たちと蠱惑のテーブル
ナポレオンズの背の高い方、ボナ植木の初小説。
実は雑誌記事でこの本を見るまで、ナポレオンズの2人の名前を知りませんでした。
マジシャンが書いた小説って、どんなものだろう。どんな小説にも仕掛けはあるけれど、仕掛けのプロたるマジシャンが小説にどんなものを仕掛けたのだろう。
小説の仕掛けが想像力に対してかけられるものだとすると、マジックの仕掛けは視覚にかけられるものだといえるかもしれません。
文字を追いかけながら、仕掛けがマジックを見るように目の前に立ちのぼってきたら。
小説の「読む楽しみ」に加えて、マジックの「だまされる楽しみ」で、とても楽しいだろうなぁ。
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《気になる》チボの狂宴
先日「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」という本を読みました。第2回twitter文学賞の外国文学部門で1位になった本です。
ドミニカ共和国という、自分にとってはまったく未知の国にまつわる、おたく文化やマジックリアリズムがない交ぜになった、むちゃくちゃ面白い小説でした。今年ここまで読んだ本のベスト3に確実に入る。
「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」の作者ジュノ=ディアズは、子供の頃ドミニカ共和国からアメリカに移り住みました。彼がドミニカ共和国について書くことに対する複雑な思い、バルガス=リョサに対する意識などについて訳者あとがきに解説がありました。
この解説と、小説中では1カ所バルガス=リョサへの言及があります。「チボの狂宴」は訳者あとがきに出てきました。
ドミニカ共和国の独裁者について書かれたこの小説も、読んでみたいと思います。
今年はいくつか続けて外国文学を読んでいるのですが、世界には自分が知らないものがたくさんある、という当たり前のことを再認識しています。
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《気になる》泣ける話、笑える話—名文見本帖
名文見本帖って、すごいタイトルだなぁ、というのが初見の感想です。
徳岡孝夫の文章は、おそらく読んだことがありません。中野翠も、本などでまとめて読んだことはないかもしれない。
わたしは泣ける話より笑える話に興味があります。小説などを読んで泣いたことは今まで何度もあるけれど、最初から泣こうと思って読むとか泣ける話だから読むことには興味がありません。
名文を読んで、泣いたり笑ったりするのは至福の時間の過ごし方でしょう。新書はそういうひとときにちょうどいいサイズかも。
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《気になる》とにかくうちに帰ります
津村記久子は「ワーカーズ・ダイジェスト」しか読んだことがありません。「ワーカーズ・ダイジェスト」は読んでじわっと共感でき、でもただ「わかるわかる」では終わらない小説でした。熱すぎず冷静すぎず、でもちゃんと芯があって、働く人の姿をきちんと書きながら「ビジネス小説」になっていないところに好感を持ちました。
「とにかくうちに帰ります」。仕事にまつわる諸々をうっちゃって、この台詞を吐いて帰宅したい日はあります。大変なことがあった日だけでなく、ちょっとしたつまづきや、うまくいかないことがあった日にも。
「帰ります」と勇ましくなくても、「(○○が終われば) 帰れる」という弱気でも、家に帰ることは安心感や落ち着きを伴うものだと思います。仕事上のあれこれをリセットする働きもあるでしょう。
「とにかくうちに帰ります」。この言葉のもとでどんな小さな事件が起きるのか、気になります。
《気になる》明日は遠すぎて
今年春に「半分のぼった黄色い太陽」という小説を読みました。チママンダ=ンゴズィ=アディーチェという、ナイジェリア出身の女性作家による長編小説です。
この本の存在を知ったきっかけは、新聞の書評欄の「今年の3冊」という年末特集です。一昨年の特集で取り上げられていました。タイトルが印象的でずっと引っかかっていました。アフリカ出身作家の小説は読んだことがなかったので、その点でも惹かれました。
2段組で厚さ3cm超あり、読むのに1ヶ月かかるかと思いましたが結局1週間で読了。悲惨な描写も多かったけれど、なにより物語として非常によかった。「読まされてしまう力」のある小説だと思います。この小説で、ビアフラ戦争について初めて知りました。
「半分のぼった黄色い太陽」はあくまでフィクションで、ビアフラ戦争に関しても史実と違う箇所はいくつかあるようです。
「明日は遠すぎて」は、今年発売された短編集です。長大な物語「半分のぼった黄色い太陽」の対極にある作品はどんなものなのか、読むのが楽しみです。
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《気になる》NHKカルチャーラジオ 文学の世界 文学の名表現を味わう—日本語のレトリックとユーモア
昨日書店店頭で発見しました。NHKラジオ第2「カルチャーラジオ」のテキストです。
この手のラジオ番組はほとんど聞いたことがありませんが、面白そうだと思って購入しました。表紙に内田百閒の写真があったのも決め手になりました。
文学作品の名表現について学ぶ全13回のシリーズですが、内容を見ると文学に限らず、文章を書くため・表現するために必要な表現やテクニックについて学べそうです。
普段実用的な文章しか書かない人にとっても、こういう口座には「表現の引き出しを増やす」効果があると思います。実用文にしろ文学作品にしろ「自分の考え・思いを誰かに伝える」という点は共通しているから。
残念ながら1回目の放送は聞き逃してしまいましたが、2回目以降は録音予約しました。静かにゆっくり聞いていきたいと思います。
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驚きと楽しみは細部に宿る〜中二階
物語はどんな場所にでも宿る。日常の中に転がっている、本当にに些細な取るに足りない細かい物のなかにも。
この本は泡で満たされた炭酸水ように、日常のささいなことから世界が広がっていきます。人間の力を超えたものを描く壮大な物語の対極にある、ごく細かい、くだらないと言ってしまえばそれまでの瑣末なことの集積です。でもその瑣末さが、壮大な物語に負けず劣らずとても楽しい。にこにこしながら読んでました。
個人的には「ミシン目」 に対する非常な讃辞が気に入りました。確かにこれを考え出した人はすごい。ミシン目がなかったら、人はどれだけストレスを抱えてしまうか。ミシン目の偉大さなんてふだん考えもしなかったけれど、確かに大きく注を取って讃辞を送る価値があるものかもしれない。
このミシン目に関する賛辞は注にあったのですが、全体を通して本編より注を読む方が楽しいのです。注が非常に細かくて、ひとつひとつが独立したストーリーのようなもの。本編から注に脱線し、どこまで読んだかな、と確認して本編に戻り、程なくしてまた脱線。
まず本編を読んで、あとでまとめて注を読む読み方もあると思いますが、それだと読む楽しみはかなりなくなってしまう。
この本を読む主目的は脱線の楽しみを味わうことにあるのかも。
ただ、最初にあとがきを読んだのは失敗でした。ネタバレとまでは行かなくとも、物語の構造が最初にわかってしまったので。構造を知った上で読んでも十分楽しめたけど、本編を読み終わってからあとがきを読むことをお勧めします。
本のオビに「前代未聞の『極小文学』!」とありますが、確かにこんな小説は読んだことがない。読んだことがないしすごく面白い。とても楽しい時間を過ごせました。
白水社
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余談
ミシン目について書きましたが、紙にミシン目を入れたいなら実際にミシンにかけるのが手っ取り早く確実です。本来の使い方ではないし針がダメになってしまいますが。
NO FUTURE, NO CRY!! 再び〜アナーキー・イン・ザ・JP
読むのが少々大変だった小説。主人公シンジの経験と、大杉栄が実際に生きた時代など、様々な時代や場面にあちこち飛んで、それを追いかけるのが大変だったからと思います。
大変な面はあったけど、小説自体は面白かった。現代のパンクス高校生の頭の中に大杉栄がよみがえる、という荒唐無稽と言ってしまえばそれまでかもしれないけど、でもその大杉栄に突き動かされるシンジのむちゃくちゃぶりにひっぱられて楽しく読みました。
シンジの頭の中の大杉栄と学校の世界史教師やシンジの兄が論争する場面が出てきます。これらの論争が個人的読みどころでした。
世界史教師との論争の中で大杉栄のこんなせりふが出てきます。
「〈浅い。いや、実に浅いよ。君はさっき、国を作るとかなんとか言ったね。その国って、いったいどういう意味なんだい? ネーションなのか、ステートなのか、あるいはカントリーか、ランドか、はたまたパトリオットか。はなはだあいまいだねえ〉」
(p83)
これに対する世界史教師の回答は「ネーション・ステート」、近代的な国民国家でした。
「国」と普段何気なく言いますが、その自分が口にした「国」が何を指しているのかまで意識することってない。そもそも自分の中で「国って何か」の定義ができていない。
普通に生活してる分には必要ないことかもしれませんが、例えば新聞などを読むときに「そこに書かれている『国』は何か」を意識して読むのはありかなと思いました。
全体を通して大杉栄の人生が展開されるけど、彼にに関するエピソードがどこまで本当かはわかりません。ヘミングウェイの「われらの時代」を訳したとか、パリでフィッツジェラルドとゼルダに遭遇した話とか。
その辺は「日本脱出記」を読めばわかるでしょうか。これも読んでみたくなりました。
大杉栄という人は、良しにつけ悪しきにつけ非常にスケールの大きい、人を惹きつけるものがある人なんだろうなと思います。シンジの兄と大杉栄の論争するシーンの直前に、これまでに映画や文学で、どれだけ大杉栄が取り上げられてきたかが列挙されていますが、それを見ても思う。
女性関係はだめです、こういう人受け付けない。
東京トンガリキッズにも出てきて、この作品でも叫ばれた「NO FUTURE, NO CRY (未来はないけど、泣いちゃだめだ)」という言葉。NO FUTURE 自体はセックスピストルズの歌詞に出てくる言葉のようです。
「NO FUTURE, NO CRY」、決して明るい言葉ではないけれど、でも心に残って不思議と励まされるのです。
「東京トンガリキッズ」とはかなり雰囲気が違っていたちょっと戸惑いましたが、微妙な湿っぽさとむちゃくちゃぶりが、そして登場人物のモデル探し (評論家とかアイドルとか政治家とか。実在の人物がそのまま出てるところもあった) が楽しかったです。
余談
日蔭茶屋って、今も営業しているんですね(会社の沿革には、さすがに日蔭茶屋事件のことは書かれていないw)。横浜の友人に会ったとき、おみやげでもらったお菓子がここのもので、まだ営業していたのかと驚いた記憶が。
いつ訪れるかわからない悲しみにどう向かうか〜ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
この本を知った直接のきっかけは読売新聞の書評にでていたこと。内容もさることながら、タイトルと表紙の絵?が強く印象に残りました。「手」と「書き文字」から、ベン=シャーンを連想してしまいました。だいぶ雰囲気は違うのですが。
主人公の少年オスカーが9.11同時多発テロで父親を亡くしていることもあってか、東日本大震災にからめて語られる (この書評もそうですし訳者あとがきにも言及がありました) のですが、できるだけそういうことは意識しないで読むようにしました。登場人物達が様々な形で悲しみ、その悲しみが癒える過程にただ寄り添う感じ。
フィクションとはいえ悲しみに向き合うことはしんどいことであり、ボリュームもあるし読みやすい本とは言えません。しかしなんとも表現しようのない心の揺れが残る小説でした。
その揺れがどこから来ているかというと、登場人物達が発する言葉です。生きること、考えること、そういう根源的な活動に対する問いが複数の人物からいくつも発せられます。そしてふるえ、泣いたり惑いながら、最後に悲しみが癒えていく。その生々しさに揺さぶられたのだと思う。
物語の最後に9.11同時多発テロ後に何度もテレビや新聞に映し出された「世界貿易センタービルから落ちる人」の連続写真が出てきます。その直前で、主人公のオスカーがもともと持っていた連続写真を並べ替えるシーンがあり、並べ替えられたあとの連続写真が載っているのです。その連続写真を見て、わたしは言いようのない衝撃を受けました。「あり得ない」順序に並べられた連続写真を見て、なぜ自分はそんなに衝撃を受けたのか。
自分が普段読むスピードだと、通勤時間に読んでへたすると2週間で終わらないボリュームですが、時間をかけて少しずつ読むより一気に読む方が向いている小説だと感じました。年末年始休みに時間を取って読んでそう感じました。もし1ヶ月早く読んでいたら間違いなく「2011年の10冊」に入れていたと思いますが、結果的に読むタイミングがすごくよかったかも。
訳者あとがきで知ったのですが、映画の公開が近いのですね。見てみたくなりました。普段はそんなこと思わないのですが。
愛知ではミッドランドスクエアシネマで上映のようです。
NHK出版
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